2011年09月08日

サンゴジュ

#(938)s.jpg

公園の生垣でサンゴジュの実が橙色に色付いていたのは2ヶ月ほど前のことだった。それが今、もうこれ以上はないほど真っ赤になっている。少しいびつな玉で萼と柱頭の跡が目立つ。完熟果実はいかにもおいしそうだが、ほとんど食べられた様子もなく、中にはそのまま真っ黒に萎びたものもある。メジロやヒヨドリたちが山から海から大挙して押し寄せてくるにはまだ間があるようだ。

#(878)s.jpg

サンゴジュの名は、赤い実が珊瑚を加工して作った玉に似ているからだそうだ。しかし数珠とかかんざしの飾りになっていたそれらは、赤というよりピンクだったと思う。一説には実の付いている枝が真っ赤で、それが珊瑚に似ているからだという。しかしそういう部分に注目するより、おびただしい数の実が、離れて眺めれば見事な珊瑚の塊のようだということでよいのではないだろうか。

#(544)s.jpg

この5月に山がちなところで、大木が上から下まで真っ白に花盛りになっていたのを見た。それがサンゴジュの花だった。直径7mmほどと小さいが、実と同じでおびただしい数だから思わずひきつけられた。よく見ると反り返った花弁や大きめの葯を突き出した雄しべなど、なかなか魅力的な花だった。こん棒状の蕾が並んでいる様子もかわいらしい。これが何の花か最初はなかなか判らなかった。それはサンゴジュというのは園芸植物として馴染みだったから、まさか山に生えているとは思わなかったからだ。関東地方南部から沖縄にかけて、温暖な沿岸域の林に自生するのだそうだ。しかし東京近辺など、まず見かけることはない。屋久島では気が付けばそれほど珍しくはなく、海近くの林道沿いなどで時々目にする。

#(939)s.jpg

サンゴジュと判ったのは、厚く大きめで、みずみずしくつやのある葉が特徴的だったからだ。見るからに水分の多そうな木で、実際防火に役立つということで生垣などに植えられたのだそうだ。性質も強健でどこでも良く茂るという。

葉をよく見ると中央脈に沿って小さなぽつぽつが並んでいる。これはダニ室と呼ばれるものだ。クスノキなどでよく見られるが、それらでは葉の根元近くに2つあるだけだが、こちらはずらっと並んでいる。それだけたくさんダニを飼っているということか。

#(940)s.jpg

裏を見ると小さな穴が開いている。この中にダニを住まわせているわけだ。何のためにそんなことをするのか、いまだによく判っていないそうだ。一説では、ここで小さな無害のダニを殖やすと、それを食べに捕食性のダニが集まってくる、それがついでに有害ダニまで食べてくれるということだった。なるほど良くできているなと思ったが、別の研究によるとダニ室の中に有害ダニもたくさん住み着いていたのだそうで、どうも自然はもっともっと複雑らしい。ともかく我々のごく身近に、まだまだたくさんの不思議があるということがうれしい。
posted by 夜泣石 at 06:27| Comment(0) | 花草木 | 更新情報をチェックする

2011年08月31日

コキンバイザサ

#(883)s.jpg

庭の踏み荒らされた雑草の間で、小さな黄色い花が咲いていた。このあたりにこんな花はいくらでもあるから、まず気にすることは無い。それでもふと足が止まったのは、何か気品のようなものを感じたからだろう。目を近づけてみて、うーむと思わず唸ってしまった。清楚な美しさに感じ入ったということもあるが、それより頭が混乱してきた。何の花か見当が付かないのだ。自分の庭で今さら知らない花に出会うなんて思いもよらなかった。

#(911)s.jpg

それから2週間も経って、また咲いているのを見つけた。湿ったところが好きなようで、他の草のないコケの間に生えている。花の大きさは1cmほど、それが根元から直接出た10cmほどの細い茎の上に付いている。葉は細く長く、このあたりにいくらでもあるイネ科の雑草とよく似ている。花がなければまず見分けが付かない。

#(915)s.jpg

6枚の花びらは幅の広いものと狭いものが交互に3枚ずつある。よく見ると外側と内側の2段になっている。これはユリ科やヒガンバナ科の特徴だ。しかしそれでも何の花か見当が付かない。今までこれに似たようなものを見た覚えがない。

#(914)s.jpg

外花被片の先に白い毛が筆先のように付いているのも珍しい気がする。葯の形がまた変っていて、ユリでよく見かけるT字型ではなく真ん中で折れ曲がって傘のようになっている。

この花の名前は植物に詳しい人に教えてもらった。コキンバイザサというのだった。小さな黄金色の梅のような花、笹のような葉、ということのようだ。コの付かない、一回り大きなキンバイザサというのもあり、近い仲間は日本ではその2種だけだそうだ。以前はヒガンバナ科に入れられていたが、今は独立のキンバイザサ科になっている。驚いたことに、よく花屋にある小さな鉢植えのアッツザクラが同じ仲間だそうだ。赤いかわいらしい花だが、こちらも負けずにかわいらしくしかも気品がある。と思ったら、この花も黄花アッツザクラの名で売られていたりするそうだ。それではと鉢植えにして引越し先に持っていこうと掘り上げた。根は花や葉に比べて意外に大きめな整った形の球根だった。

花期は4〜6月だという。今頃咲くのは狂い咲きかもしれない。それではなぜその頃気が付かなかったのか。考えてみると春から初夏、このあたりは黄色の花で埋まっている。それらはみんなありふれたものばかりだと思い込んでいたし、コナスビなど離れて見るとなかなか似たような感じなのだ。そうした花がほとんど咲き終わった今頃になって、やっと目に留まったのだろう。またこの花は朝咲いたとか思うと、10時を過ぎる頃にはもうしぼんでしまう。その短命さも気が付かなかった一因だろう。

分布は本州宮城県以南から沖縄にかけてと広い。しかし宮城県や栃木県では絶滅、また大半の県で絶滅危惧種に指定されている。屋久島の属する鹿児島県でも準絶滅危惧種だ。これでは今まで見たことがなくても不思議は無い。また南九州や沖縄の植物図鑑を何冊も見たが、どれにも載っていなかった。そんなかなり珍しいものが、どこから来たのかひょっこり庭先に現れるなんて、やはりこの島の自然の懐は深いなと改めて思ってしまう。
posted by 夜泣石 at 09:07| Comment(0) | 花草木 | 更新情報をチェックする

2011年08月15日

オトギリソウ

#(894)s.jpg

少し前から我が家の庭でオトギリソウが咲き続けている。多年草で毎年同じところから芽が出て咲くのだが、そうでないところでも見かけたりするから種が散らばったりするのだろう。真夏の花の少ない時期、透明感ある黄色の花がそこかしこで咲いてくれるのはうれしいものだ。朝咲いて、日差しの厳しくなる昼頃には萎れていく。一日花といわれるが実際は半日も持たない。それでもたくさんの蕾が次々にできて、しばらく花は途絶えることがない。

#(885)s.jpg

花の径は1.5cmほど、いささかいびつな花びらが風車のような重なりで並んでいる。雄しべが長くたくさんあるので繊細な感じもする。雄しべは整えられていなくて乱雑に生えているように見える。なんでも根元でくっついて束になっていて、その束が3つあるのだそうだ。花びらの裏には黒い点線がたくさんあり、表側にもうっすらと見えたりする。

#(847)s.jpg

上から見ると真ん中でまん丸な子房が目を引く。そこから出た3本の柱頭が平面を正しく3等分している。この幾何学図形は面白い。その柱頭の先がぽつんと赤くなっているのもかわいらしい。

#(889)s.jpg

小さな花蜂が来ていた。お目当ては蜜ではなく花粉のようで、後ろ足にかなり大きな花粉団子を付けている。雄しべの数が多いから仕事ははかどるのだろう。

#(895)s.jpg

オトギリソウの葉は丸く細長く子供の絵のようだ。2枚が向かい合って付き、その向きが次の段と直角になる。そんな特徴ある形を作るので、生え始めの頃でも何か特別な草のような感じがする。実際これは薬草として有名なのだそうだ。弟切草の名も、その秘薬の秘密を弟が他人に漏らしたので、兄が怒って切り殺したという昔の伝説からだそうだ。

私にも弟がいる。不平不満、また自慢と言い訳ばかりを口にして、ほとんど働くこともなく引きこもりの人生を過ごしてしまった。金には汚く、認知症の進みつつあった父の収入を横取りしていた。そんな弟に、父は全財産を譲ると遺言を残した。おそらく弟の策略だったのだろう。あるいは私は父に何度も意見したから、疎まれてしまったのかもしれない。弟は末っ子で、私や姉の悪口ばかりを言いながらも、一方では甘えたがっていたようだ。しかし私は、故郷を離れ自力でこの世を生き抜いていくのに精一杯で、そんなやっかいごとを受け入れる余裕など無かった。私は弟を精神的に切り捨てた。今、大金だけを抱えてどこでどうしているのか全く知らない。そんなこの世の煩わしさを、この花の名前からふと思い出したりするのだが、そうした感慨も年毎に薄れていく。
posted by 夜泣石 at 10:45| Comment(0) | 花草木 | 更新情報をチェックする

2011年07月31日

アピオス

#(824)s.jpg

庭に張ったネットに絡んで、1cmほどの小さな花がかたまって咲いていた。アピオスだった。以前食用に植えたけれども、たいした収穫がなく放ってしまった。それがしぶとい雑草になって、毎年つるを伸ばして花を咲かせる。

#(826)s.jpg

ここではたくさんの花が咲くが、こんなえんじ色は珍しい。それに不思議な形をしている。真ん中にアーチ状の柱があり、その先は天井にはめ込まれてしっかり支えているかのようだ。マメ科の花だからこの柱は竜骨弁で、普通は前方に突き出しているものだ。これは実は鞘になっていて、虫が止まると重みで下がって、すると中に隠されている雄しべ雌しべが出てきて虫の体に触れる仕組みだ。しかしこの花だと旗弁にしっかり固定されていて簡単には外れそうにない。それでは受粉できず意味がない。実際日本ではまず豆はできないそうだ。

それはともかく、この花の香りにはびっくりする。爽やかとか甘酸っぱいとかよくある香りでは全くなく、アラブの王様のハレムにでもふさわしいようなむっとするほどのものだ。この花園にミツバチを放したら秘伝の蜂蜜でもできそうな気がする。もしかしたら原産地には、この香りに狂喜して柱を倒すほど暴れて、そして受粉を助ける特大のハチでもいるのかもしれない。

#(825)s.jpg

上から見るとまた全然違った印象の花になる。赤みがかった淡いクリーム色がとてもきれいだ。そして戦国時代の兜でも思わせるような不思議な形だ。

#(834)s.jpg

葉はマメ科らしく複葉だが、ちょっと変った形なので他の雑草と容易に区別できる。毛虫など害虫はつかず無農薬で育てられるという触れ込みだったが、あちこち食い跡がある。このあたりに多いきれいな黄色のカタツムリの仕業のようだ。また何でも貪り食うツチイナゴも葉の上で時々見かける。

アピオスは北米原産でネイティブ・アメリカンの食料だったそうだ。といっても食べるのは豆ではなく肥大した根だ。冬に地上部が枯れた後、掘り出してみると縄のような根が長く伸びていて、そこに数珠のようにイモが連なっている。大きなものは5cmにもなるというが、残念ながら我が家では2〜3cmほどのものばかりだった。なぜか黒く傷んだ部分も多く、結局食べずに放り投げてしまった。それが雑草化して毎年花を咲かせている。しかしこのイモは栄養価が高くて健康食品として高値で流通しているのだそうだ。ヤマイモのムカゴのような感じで調理法も同じだという。しまった、ムカゴは大好物なのにと今になって後悔する。

なおアピオスの正式名はアメリカホドイモというのだそうだ。もともと日本にホドイモという野草があるそうで、同様に根が食用になり郷土料理などに利用されているという。日本全土に分布しているそうだが今まで知らなかった。ぜひ見てみたいものだと思ったが、残念ながら屋久島にはないのだそうだ。
posted by 夜泣石 at 06:03| Comment(0) | 花草木 | 更新情報をチェックする

2011年07月27日

キジ

#(707)s.jpg

近所のあぜ道を歩いていて、ふと足元の畑に何かがうずくまっているのに気付いた。あ、キジの雌だなとすぐ思った。向こうもこちらを見ているのだが、なぜかじっと動かない。どこか具合でも悪いのだろうか。いや羽もきれいだしとても元気そうだ。それとも卵でも抱いているのか。それにしては道に近すぎるし身を隠すほどの草も生えていない。真夏の日差しは容赦照り付けていて、裸地の表面は恐ろしいほどの温度になっているはずだ。よくもまあこんなところでじっとしていられるものだとあきれてしまう。

この島で、足元からキジの飛び立つことは何度も経験している。何もないようなところを物思いでもして歩いていて、突然足元からわっと大きな羽音で飛び立つのだから、それこそ心臓がひっくり返りそうになったりする。そういう時、キジはきっとこのようにじっとこちらをうかがっていたのだろう。もう少しよく見ようかとそっと近付くと、不安げに顔だけ動かしてこちらを見つめる。飛び立たせるのは気の毒だから、もうそれ以上は近付くのを止めた。

#(706)s.jpg

それでも生きているキジをこんなに近くで見るのは初めてだ。昔、小学校で飼っていた鶏を思い出すが、それよりだいぶかわいらしいように思う。嘴が短いし、全体に若鶏の感じがする。このあたりでは春早々からキジがケンケン騒ぎ出すので、ずいぶん早く繁殖期に入るのだろう。その頃生まれていればもうこのくらいになっていてもおかしくない。

(110992)s.jpg

キジは春から初夏にかけて何度か繁殖するのだそうだ。あれは昨年の今頃のことだった。農道を走っていて、キジの雌がさっと茂みに身を隠すのが見えた。あたりに甲高い声が響いていた。何だと思って車から降りて見回すと、側溝に5羽ほど雛が落ちていた。それがけたたましく鳴いていたのだ。近付くと大急ぎで逃げる。しかし側溝は深くて出ることができない。近くで親鳥の声もするので心配しているのだろう。そのままにして帰ったが、小さな体の割には驚くほど大きな足だったから、そのうち何とか這い出ることができたのではないか。

(107733)s.jpg

キジは我が家の庭にも出没する。数年前の梅雨時、立派な雄が2羽の雌をつれて歩いていた。真っ赤な顔がいささか化け物じみている。これは繁殖期の特徴で、赤い肉腫が肥大するのだそうだ。

(112027)s.jpg

道路を堂々と歩いているのもよく見かける。いつだったか広い県道を横断しているものがいた。猛スピードで突っ込んでくる車から逃れようと、車に負けない速度で必死に走っていた。渡り終えた後、ああ助かったとハアハア肩で息をしているような様子が人間そっくりで、気の毒でもありおかしくもあった。

キジは日本固有種で国鳥にもなっている。しかし北海道にもまた沖縄にもいないそうで、屋久島あたりが分布の南限のようだ。海を越えて飛ぶことはできないから、隔離効果でこの島のキジはシマキジという亜種に分化しているとのことだ。しかし狩猟目的に本土の若鶏が放鳥されて、今は雑種だらけなのだそうだ。残念なことでもあるが、一方、雑種強勢でより逞しくなったためか島中にあふれるほどになっていて、こんな大きなきれいな鳥が身近で年中楽しめる。
posted by 夜泣石 at 05:08| Comment(0) | 花草木 | 更新情報をチェックする

2011年07月23日

マンリョウ

#(778)s.jpg

うっそうと茂った防風林の陰で白い花を見つけた。大きさは8mmかそこら、膝ほどの高さのところにうつむいて咲いているので気付かず通り過ぎるところだった。

花びらには細かな毛が生えているようでしっとりとした質感がある。全体に茶色の斑点があり、まるでそばかすだらけといった感じだ。特に雄しべの、いやに大きな黄色の葯で目立つ。こういうのは腺点と呼ばれるが、いったい何の役に立っているのだろうか。

よく見ると雄しべの根元を小さな爪の様なものが取り囲んでいる。これはいったい何だろう。もしかしたらスイセンなどで見られる副花冠だろうか。

#(776)s.jpg

雰囲気からしていかにも日陰の花だが、それなりに趣もある。束になっていっせいに咲いたら少しは見栄えもするだろう。残念ながらもう終わり頃で、たくさんの果実が膨らみつつあった。それがまた半透明の緑色でなかなかきれいだ。そしてそれにもまた茶色の斑点が目立つのがご愛嬌といったところか。

#(780)s.jpg

さてこの花の名前は何だろう。ヤブコウジの仲間であることは一目で判る。ヤブコウジ科は熱帯亜熱帯が分布の中心で、当然のように屋久島には種類も個体数も多い。どれもこんな様な感じの小さな花をたくさん付ける。枝葉の方を見ていって、特有の丸い鋸歯に見覚えがあり、ああこれはマンリョウだなと思い至った。

(111831)s.jpg

半年ほど前の冬、やはり近くの防風林で赤い実の写真を撮っていた。東京などでは正月の縁起物としてよく売られているが、ここでは里の茂みの中などでごく普通だ。鉢植えだと高さは50cmにもならないが、防風林の中だと他の木と競い合って人の背丈より高くなっていたりする。この実はかなり長い間たわわに実ったままだったが、暖かくなり始める頃、いっせいになくなっていた。その頃やっと食べごろになったのかもしれない。そうして鳥たちのおかげでまたあちこちから芽生えてくる。

ところで縁起物として飾られる木には一両から万両まで順にあるが、これらはもともとの名でなく、商業の発達した江戸時代に新たに名付けられたものだそうだ。最初は百両で、中国から伝わった名前をカラタチバナに当てはめたという。そしてそれより見栄えのする木を千両、さらにその上ということで万両の名になったとのことだ。そうして縁起の良い木としてもてはやされるようになっていったのだそうだ。しかし正月早々、すべての日本人が拝金主義者にならなくてもよいのにと思うのだが。
posted by 夜泣石 at 06:10| Comment(0) | 花草木 | 更新情報をチェックする

2011年07月16日

ユウヅルエビネ

#(746)s.jpg

近所の家のスギの防風林の下で、一面にツルランが咲いている。これらは昔、近くの山から採ってきて増やしたものだそうだ。その純白が広がるところどころに、薄い赤紫を帯びた花がきれいな模様を作っている。

大きさは3cmほど、この人形のような感じは日本の野生蘭の中では最も形の美しいものの一つだろう。ツルランと比べて、ほとんどそっくりだが手足の部分の太さが違う。特に足の部分が、ツルランは痩せぎすだが、こちらは太っているというより袴でもはいているようだ。

#(750)s.jpg

真上から見る。手足を前に突き出している様子が子供の仕草のようでほほえましい。

#(747)s.jpg

横から見る。おかっぱ頭に帽子でも被っているのだろうか。胸元の橙色の飾りは何やら重要な品物のように見えるが、単に盛り上がっているだけだった。その上の方に、ラン科特有のずい柱が納まっている。

#(754)s.jpg

花茎の先にびっしりと咲くから離れて見ても見栄えがする。先っぽに丸い蕾がかたまっている様子も、雛鳥がひしめいている小鳥の巣でも覗いたみたいでほほ笑ましい。蕾は咲く前に、まず長い距がぐっと伸びる。尻尾のある蕾というのもなんだかおかしい。

#(753)s.jpg

さてこのランだが、いろいろ調べた結果ユウヅルエビネであるようだ。純白のツルランに対し、赤みがかかっているのを夕日を浴びていると見立てたのだそうだ。この赤みの程度はかなり濃いものから薄いものまでいろいろあり、中にはツルラン同様純白なものまである。我が家の庭でもここから分けてもらった株が今を盛りと咲いているが、どうもツルランにしてはおかしいと思っていたのだが、結局このユウヅルエビネの純白種であったようだ。

ユウヅルエビネはツルランとオナガエビネ(一説ではリュウキュウエビネ)の自然交雑種だそうだ。ただ屋久島ではツルランは豊富だがオナガエビネもリュウキュウエビネも見たことがない(有るとする文献と無いとする文献の両方がある)。ここで交雑したのでなく、どこかですでに雑種になってから屋久島に広がってきたのかもしれない。

なお園芸植物でリュウキュウエビネの名で流通しているものは実際はこのユウヅルエビネであるそうだ。こちらの方が華やかだし、雑種強勢ということで栽培しやすいのだそうだ。しかしそれならなぜ偽名を使うのだろう。夕鶴の名前の方がずっと素敵だと思うのだが。
posted by 夜泣石 at 06:46| 花草木 | 更新情報をチェックする

2011年07月12日

ヒモヅル

#(715)s.jpg

奥岳への道路が山を切り崩して拡幅されている。斜面には落石防止のネットがずっと張られている。そうしてまだ数年も経っていないような所に、びっしり緑の紐が絡まっていた。紐の先端が膨らんでいるものがある。これは胞子嚢穂と言うそうで、これでこの紐がシダの仲間であることが判る。ずいぶん大きくなってすでに茶色の枯れ穂になったものもあるから、年に何度も胞子を飛ばすようだ。

#(714)s.jpg

新しく伸びた部分は扁平な真田紐のような感じだ。それが幾重にも垂れ下がって、すだれかカーテンのようだ。もし家に這わせて、窓辺に垂らしたらとても涼しげで気持ちよさそうに思う。

#(716)s.jpg

いやいやそんなことをしたらとんでもない。何メートルもの高さの崖や樹木ををびっしり幾重にも覆ってしまっている。家などすぐ飲み込んであばら家にしてしまいそうだ。

(111446)s.jpg

昨年秋見たときには針のような葉が茎から斜めに立ち上がっていた。これがスギの木に絡んでいると、どこがどちらだかちょっと迷うくらいだ。

(111444)s.jpg

茎は意外なほど太くなる。この時の葉はうろこのようで大蛇を思わせる。こんなものが延々と崖を這い、また地面に横たわっている。もしピクリとでも動いたら、思わず後ずさりしてしまいそうだ。

屋久島にはヒモヅルという珍しいシダが豊富にあると聞いていた。初めて見た時すぐああこれだなと思った。全く名前と姿がぴったりだ。南方系で近畿から九州にかけて分布するそうだ。しかし飛び飛びにごくわずかにあるだけで、各地で絶滅危惧種に指定されている。不思議なことに沖縄の方にはなく、屋久島が南限になっている。少し山を登った500m位のところから出てくるから、暑過ぎるのも苦手なのかもしれない。道路工事で自然が破壊されると真っ先に出てきてあたりを覆うので、近年どんどん増えているようだ。シダのマニアにとっては卒倒しそうなほどの景色が広がっている。
posted by 夜泣石 at 09:23| 花草木 | 更新情報をチェックする

2011年07月09日

モッコク

#(690)s.jpg

モッコクはどっしりとした感じの大木で、東京でも庭園などに、そこの主のような感じに植えられているのを時々目にしていた。当たり前過ぎたためか、風格ある姿を離れて眺めるだけで花など気にしたことはなかった。

屋久島に来て、生垣の中に白い花の咲いているのを見て、それがモッコクであると判るのにしばらく時間がかかった。あの堂々とした姿からは意外なほどのかわいらしい花だった。直径2cmほど、乳白色の貝殻細工のような厚めの花びらには高級感がある。形が整わずふちがでこぼこなのがご愛嬌といったところか。たくさんの黄色の雄しべと真ん中の大きな雌しべの取り合わせも何となくほほえましい。ところでこれは両性花だが、雄しべだけがもじゃもじゃびっしり中心を覆っている雄花もある。

#(693)s.jpg

モッコクの咲くのは例年より半月は遅いようだ。この冬のあまりの寒さのためか、それとも春から梅雨時までぐずぐずと続いた悪天候のためか。近くを通るたびに覗いてみたのだが、蕾のままでなかなか開こうとしなかった。それでもこの蕾もなかなか見所がある。滑らかな曲線は白鳥の首とでも言おうか。その先にぶら下がった玉は冷たく固い磁器のような感じだ。この木は蕾でいる期間が普通よりだいぶ長い。そしてまだかまだかと待っているうちに突然いっせいに咲く。残念なことにじきに変色が始まって汚らしくなってしまう。

#(692)s.jpg

葉は分厚くのっぺりとしてそれがびっしりと付いていて、これも庭木に喜ばれる一因だろう。その葉陰に無数ともいえる花が付いている。そしてあたりにとてもよい香りが漂う。なんでもこの香りがランの仲間のセッコク(石斛)に似ていて、木だからモッコク(木斛)という名になったという説明があった。しかしランには芳香を持つものが多く、その中で特にセッコクが固有の香りを持っているようには思えない。ただセッコクは高木の梢などに着生して白い花をびっしりと咲かせるので、その様子は似ているかもしれない。

(111017)s].jpg

1、2ヶ月もするとたくさんの果実ができる。蕾や花と同様、これもなんだかいじらしいようなかわいらしさだ。花と同様、果実も無数にできて、それが冬になると赤くなって木全体を美しく飾り立てる。

モッコクはツバキ科とされていて、確かにお茶の花などに似ている。しかし最近のAPG植物分類体系では別の科に独立させている。分布は千葉県以西から南西諸島にかけての温暖な地域だそうだ。しかし目にするものはほとんど植栽だ。「庭木の王様」とか「江戸五木の一つ」とか言われている。屋久島でも人里に多く、きっと植えられたものだろう。しかしこの木が似合うような庭園はまずこの地ではお目にかからない。
posted by 夜泣石 at 06:42| 花草木 | 更新情報をチェックする

2011年07月04日

ヤマシグレ

#(735)s.jpg

間断なく降り続いた今年の梅雨だったが、その埋め合わせをするかのように早々と明けてくれた。早速見過ごしていた花々を見ようと山岳地帯に車を走らせた。あちこち、目当てのものをだいたい撮り終ってさあ戻ろうかという最後に、茂みの中に赤い花のあるのに気付いた。

一つ一つはせいぜい米粒くらいか。それが数十個ほど肩を並べている。赤から白へ、微妙に変化するピンクの色合いがとてもきれいだ。花びらが開いていないので初めは蕾かと思ったが、よく見ると雄しべの束が突き出ている。こげ茶の葯が開いて白い花粉まみれになっていたりするので、これでも花の真っ盛りのようだ。

#(733)s.jpg

小さな花でも寄せ集まればそれなりに目立つ。ハチの一種か、そっとやってきて止まった。花粉をなめているのか、それとも長い口吻を差し込んで蜜を吸っているのだろうか。

#(736)s.jpg

蕾は最初は白っぽく、だんだん濃さを増していく。花茎は何段階かに枝分かれしている。端に行くに従い長くなって、それで花の高さが全部揃うよう調節している。同じ長さだと球状になるが、それよりこうして平面状に展開する方がより大きく見えるということだろうか。

#(729)s.jpg

垂れてきた枝がぐっと首を上げて、その先にさあどうぞと差し出すように花を付けたりしている。この様子からつる植物かと思ったが、ただ枝が細く長いというだけで何かに絡みついたりはしていなかった。

#(738)s.jpg

細い枝がたくさん出て互いに交差したりしていて、どこがどの枝だかどこかに幹があるのかなど、さっぱり見分けが付かない。この様子や花や葉の感じなどから、これはきっとアジサイの仲間だろうと思った。しかし調べてもこんな赤い花はなかった。やっと屋久島の植物図鑑で全く違うスイカズラ科のヤマシグレであることが判った。着生木として有名で屋久杉の解説などではたいてい触れられている。しかしこんな花が咲くとは思わなかった。だいたい高いところにあるから近くで見る機会も無かったのだ。

山時雨というのは、耳で聞いても漢字を見てもどこか幽玄な感じで、霧の中に浮かび上がるすっきりとした喬木を思い描いてしまう。どうもこの木に似合いそうもない。実はシグレは時雨でなく、シブレがなまったものだという。シブレは近い仲間のガマズミの方言名なのだそうだ。

分布は本州中北部から九州にかけての山地とされている。北のものはミヤマシグレと分ける人もいるが、ほとんど違いはないそうだ。東京近辺にも自生していたはずだが、見たことが無かったので個体数はあまり多くはないのではないか。屋久島は分布の南限だそうで、1000mほどの雲霧林帯にわりと普通だそうだ。

なお屋久島産は固有変種のマルバヤマシグレとの記述がある。しかしそれは屋久島関連の書物やサイトにあるだけで、権威ある植物図鑑などには載っていない。ただ葉が広いというだけのようだからせいぜい変異ぐらいではないか。ことさらに特異性を強調して屋久島をもったいぶるような風潮は慎むべきだと思う。

(104049)s.jpg

もう何年も前の晩秋、屋久杉の着生木が美しく紅葉しているのを見て回った。高いところなので何の木かわからなかったが、今、写真を取り出して見て、そのいくつかは葉の形などからヤマシグレだったようだ。花の盛りも美しいが、散り際もそれに劣らぬほど美しい木なのだった。
posted by 夜泣石 at 09:21| 花草木 | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。