2011年06月29日

マルバニッケイ

#(670)s.jpg

海岸でマルバニッケイが咲いていた。大きさは1cmに満たず、色も白でまず目立たない。それでもよく見るとなかなか魅力的な花だ。貝殻細工のような花びら、黄色のしっかりとした雄しべ、真ん中にはずいぶん大きな柱頭が鎮座している。クスノキの仲間はどれも同じような花だが、その中で一番整った感じがする。

じつはこの科は、被子植物の進化の過程で早期に枝分かれした傍流で、かなり原始的な姿を留めているのだそうだ。花弁と萼の区別がないので花びらと言うのは適切ではなく、花被片と呼ぶべきとのことだ。たくさんある雄しべは、3つが一組でそれが何段階かに重なっていて、また仮雄しべがあったり腺体が付いていたり、なかなか複雑なのだそうだ。葯も弁が開閉して花粉を出す仕組みで、この科だけの特殊なやり方だそうだ。

#(671)s.jpg

葉は長さ3cmかそこら、丸っこくてかわいらしい。海岸の厳しさに耐えられるよう、厚く堅く、裏面にはびっしり毛が生えている。クスノキ科らしく3脈が目立つ。そしてこれをちぎるとこの仲間特有の、シナモンのとてもよい香りがする。

#(679)s.jpg

マルバニッケイは荒磯の最先端に生える。この先にはもう岩の隙間に小さな草ぐらいしかない。強風をまともに受けて、枝や幹が捻じ曲げられ奇怪な姿になっていたりする。あまりの苛酷な環境で、ついに枯れ木になってしまったのもしばしば見かける。

日本固有種で、九州から南西諸島にかけて分布しているそうだ。しかし九州本土でも沖縄県でも限定的にしかなく、たいてい絶滅危惧種などに指定されている。そんなかなり珍しい種類なのだが、屋久島ではごくありふれていて海岸の岩場などしばしばこの林で覆われている。

(111853)s.jpg

昨年の秋遅く、果実を見つけた。花の数に比べてかなり少ない。鳥に食べられてしまったというより、もともと結実率が低いようだ。そういえば近縁種でもう少し内陸に生えるヤブニッケイも結実は少ない。同じ仲間でも山側のクスノキはおびただしいほどの実を付けるのだが。

(111857)s.jpg

ふとおかしなものがあるのに気付いた。実が分厚い丸座布団に乗っているというか、それともとんでもない首かせをはめられてしまったというか、とても奇妙な形だ。

(111855)s.jpg

すっかり埋もれてしまったものも多い。たぶんこれは虫こぶだろう。こうなると果実は熟すことができず黄色のままだ。クスノキなど、葉に虫こぶがあるのはたまに見かける。しかし果実というのは初めてだ。何かの幼虫でも潜んでいないかと割ってみたが何も見つからなかった。虫こぶの資料を当ったがこれに関する記述はなかった。考えてみればもともと珍しい木だし、虫こぶ研究者の方も希少といえるくらいだから未だ知られていないのかもしれない。
posted by 夜泣石 at 09:22| 花草木 | 更新情報をチェックする

2011年06月22日

トサカフトメイガ

#(632)s.jpg

梅雨時に雨が多いのは当然としても、こんなに毎日降り続くものだったかと訝しく思うほど雨の日が続いている。外に出られずうんざりするが、しかし家の周りで鳥たちは元気に飛び回っている。彼らの羽は水をはじくので雨など全然気にしないようだ。夜になると窓の光にたくさんの蛾が集まってくる。彼らもまた鱗粉が水をはじくので平気なのだそうだ。真っ暗で蒸し暑い、どうしようもなくうっとうしい夜に特に多いようだ。

2cmほどの茶色の蛾がいくつも止まっていた。地味で薄汚いほどにしか見えなかったが、光を当ててみて、なかなかきれいなのに驚いた。茶色と緑の微妙な色合いがなんともいえない。点描で描いたような黒い横線や下端のふち飾りもいい。古い茶器など、趣のある焼き物の配色を思わせる。

弧を描いた横線が2本あるが、下側の方は中ほどでほとんど消えているように見える。実は下に曲がって半円を描いているのだった。この特徴から、この蛾はトサカフトメイガという名前であることがわかった。本州から南西諸島にかけて、ごく普通に分布しているそうだ。

#(636)s.jpg

横からも見る。背筋をぴんと伸ばして、なかなか威勢がよさそうだ。ただこげ茶の目が、真ん中がへこんだような感じで、なんだか萎びたドライフルーツを思わせる。こんな目で、世の中はいったいどう見えるのだろう。

#(639)s.jpg

裏側からだと、なかなか愛嬌があって面白い。太めの足をしっかり踏ん張って、重そうな体を支えている。触角からするとこれは雌で、この丸々としたお腹に卵がたくさん詰まっているのだろう。

#(631)s.jpg

口先を見る。なにやらくちばしみたいなものが付いている。これが鶏のトサカのようというのが名前の由来だそうだ。どういう役割なのか、このように口先の尖っている蝶や蛾を時々見かける。またこの蛾を見て、メイガの仲間だとは全く思わなかった。普通、メイガはもっと小さく細く弱々しい感じなのだが。なんでもこれはこの仲間の中では最大級ということだ。

夏の終わりごろなど、よくヌルデやハゼノキの枝先が白い薄い網のようなもので覆われて、中の葉がレースのように透け透けになっているのを見かける。あれがこの幼虫の巣だった。あんな巣を作るものではアメリカシロヒトリが有名だが、彼らはあまり木を選ばず手当たり次第に食べる。もしウルシ科がやられていたら、たいがいこちらの方と見てよいようだ。中は赤黒いケムシでいっぱいになっている。それに比べると成虫の方はそれほどおびただしくはない。なんでもこのケムシは見掛けがよいのか味がよいのか、鳥たちの大のご馳走になっているのだそうだ。
posted by 夜泣石 at 06:10| 生きもの | 更新情報をチェックする

2011年06月16日

カギカズラ

#(587)s.jpg

カギカズラが咲いていた。たくさんの小さな花が集まって2cmほどのポンポンのような形を作っている。少し緑がかった淡いクリーム色で、目立ちはしないがよく見るととても魅力的だ。つんつん突き出た白い雌しべの頭がきれいな緑に染まっているのもなんだかかわいらしい。

#(601)s.jpg

一つ一つの花は長さ1cmほどの細い筒状で、先が5つに分かれている。ところが見ていくと4つのものや6つのものもある。それに合わせて雄しべの数も4〜6と変化する。一つの花序の中の花たちだからこれは個体差ではない。同じ遺伝子からこんな違いが出るのがかえって不思議なくらいだ。

#(594)s.jpg

花は糸で吊るした飾り物のようで、びっしりぶら下げられている。花軸が短いと横や上にも出る。上に並ぶとタニワタリノキにそっくりだ。これらは同じアカネ科だった。タニワタリノキは芳香があたりにたち込めるほどだったがこちらは感じない。鼻を近づけると、やっと同じようなすばらしい香りがかすかにした。

#(538)w.jpg

蕾は緑の金平糖のようで、ちょっと見ただけだと果実かと思う。ひと月以上もかけてだんだん膨らんできて、ある時いっせいにばらける。だらだら咲き続けないで木全体がほぼ同時に咲く。

#(599)s.jpg

花の形も珍しいものだが、この見事な鉤はもっと珍しい。つる植物は種々あるが、こんな道具を備えたものは他に見たことがない。これは何からできたのかと思ったら、枝が変化したものなのだそうだ。葉の付け根の上から出ているし、托葉は2本の角のような形でちゃんとあるので枝以外に考えられないわけだ。普通はまっすぐ伸びて花や葉を付ける枝がこんな形になるなんて、自然の変幻自在さには改めて驚かされる。ところでこの部分には何種もの薬効成分が凝縮されていて、この鉤だけ集めた漢方薬があるのだそうだ。

#(605)w.jpg

鉤は見事な曲線を描いている。ルアーの釣り針のようで、うっかりするとすぐ引っかけられて痛い目に会う。これで他の木の枝などを絡め取ってよじ登っていくのだ。驚くのは、そうやって相手を得ると、恐ろしいほど太くがっしりしたものに変身することだ。これでは捕まった方はたまらないだろうと同情する。

(110716)s.jpg

春に伸びる枝に付く新葉は見事なくらい赤い。そのきれいな袖の下に、恐ろしげな鉤がしっかり隠されている。面白いのは2個対になっている節と1個だけの節とがあり、だいたいそれが交互になっていることだ。なぜそうなるのか、理由は判っていないようだ。

カギカズラは房総半島以南に分布するそうだが本土ではかなり珍しい。屋久島では谷筋などあちこちで見つかる。しかしたいてい大木に絡まっているので、目の前で花を見られる機会は少ない。ある川岸に大株があり、上を通る道からちょうど目の前が樹冠になるところがあった。これは絶好の場所だと毎年見に行ったのだが、なぜか全く花を付けなかった。だいぶ期待の薄れた今年、それでも5月の初め、覗いてみたら蕾があるのに気付いた。ああやっと見られると心が躍った。しかし好事魔多しで今年の6月は毎日雨続きで、なかなか見に行けずやきもきさせられた。そうした挙句の一日だけの雨上がりの日、やっと満開を見ることができた。

カギカズラは特異な鉤、美しい春紅葉、そして可憐な花など、とても魅力的な植物だ。その一方、どうしようもない暴れん坊で絶対に庭などに植えたいとは思わない。普通のつる植物と違って一度絡みついたらまず外せない。そして大木によじ登って樹幹を占領してしまう。根元などかなり太くなって、つるというより普通の木のようだ。こんなものでも受け入れて包み込んでしまう奥深い大自然の中でないと、落ち着いてその魅力を味わうことはできそうにない。
posted by 夜泣石 at 06:46| 花草木 | 更新情報をチェックする

2011年06月09日

イシガケチョウ

#(576)s.jpg

花盛りのクマノミズキにイシガケチョウが集まっていた。白地に縦横の黒い線、それが石崖あるいは石垣に見えるということが名前の由来だそうだ。英語名では地図蝶だそうで、線を道路に見立てたものらしい。私には、なんだか大航海時代の世界地図のようにも見える。白い部分は海で、線は緯度経度そして航路、ふちの方の複雑な色模様が大陸部分か。破れ目もあるので余計に古さを感じさせる。これは本当は破れているのでなく、生まれつきこの形なのだが。

#(575)s.jpg

普通の蝶と違ってたいてい羽をべったり広げて止まる。羽の裏側は瞬間的にしか見せてくれない。蝶や蛾は表と裏の模様が全く違ったのものが多いが、これは珍しくほぼ同じだった。なかなか抑えた色使いだが、その配色が絶妙で全体としてはかなり目立つ。これでは鳥などに狙われないかと心配になるが、もしかしたら木の枝の錯綜している所、木漏れ日のちらちらするような所では、この模様がかえって周囲にまぎれてしまうのかもしれない。

#(571)s.jpg

しかも突然消えてしまってあれっと思ったりする。真っ平らに止まるから、紙を横から眺める感じでほとんど見えなくなってしまうのだ。よく木の葉などにペタッと張り付いて休んでいたりするが、そういう時は単なる模様になってしまっている。また飛んでいる様子も全く蝶らしくなく、ひらひら白い紙でも風に舞っているかのようだ。

#(573)s.jpg

なかなか敏感でそっと近付いてもさっと飛び立つ。近くで見るためにはじっと地蔵にでもなったつもりで待つしかない。やっと見せてくれた顔は、なかなか目が大きくかわいいものだった。ヒゲのような、あるいは嘴のような突起があるが、これは何だろうか。蝶や蛾には時々こういうものを持っているのを見かける。

#(418)s.jpg

もう一月も前、満開のセンダンに来ていたのを見かけた。こずえ一面、純白に紫の点描を散らし、かぐわしい香りも漂う中で、この不思議な模様は一段と引き立っていた。

(102146)s.jpg

以前、真夏の林道の水溜りで何十羽と集まっていたのを見たことがある。彼らは花よりもむしろこうした汚れた水の方を好むのだそうだ。アオスジアゲハなども同様で、一緒に群れていた。近付くと一斉に飛び立ち、乱舞する蝶たちに取り囲まれ、しばし夢見心地の思いがした。

春から秋に出現するとされるが、屋久島ではほとんど一年中見られる。成虫越冬するそうだから、冬でも暖かい日には出てくるのだろう。幼虫の食草はイヌビワなどイチジクの仲間の木だそうだ。これもまた屋久島にはいやというほど生えている。食糧事情からすればもっとたくさんいてもおかしくないくらいだ。幼虫は角の生えた怪物的な形だそうだがまだ見つけたことがない。たぶん多くが鳥などの天敵にやられてしまっているのだろう。

イシガケチョウは昆虫図鑑の中でも特別目立つ存在で、子供の頃、南国の神秘の一つとしてあこがれていた。屋久島にはたくさんいるとのことで、移住に当っての楽しみの一つだった。しかし最初はなかなか見つからなかった。だいぶ経ってから、あたりでよくひらひらしているのがイシガケチョウであることにやっと気付いた。思ったより小さく、仕草が蝶らしくなく、少し離れると模様が消えてただの白い蛾のようにしか見えないので判らなかったのだ。

そんなあこがれの蝶だったが、最近では本州をどんどん北上しているそうだ。そういう先例としてはツマグロヒョウモンナガサキアゲハなどがある。いずれはクマゼミのように、東京でもうじゃうじゃいるようになってしまうのだろうか。それは虫好きにとってはうれしいことかもしれないが、一方では味気なくなってしまった気がしてならない。
posted by 夜泣石 at 20:48| 花草木 | 更新情報をチェックする

2011年06月03日

コウシュウウヤク

#(532)s.jpg

海近くの川岸の林で小さな黄色い花の塊を見つけた。薄暗いところで、しかも葉陰からそっと覗いているだけだから、普通に歩いていたらまず見過ごしてしまう。一つ一つの大きさは2mmかそこら、蕾なのか花なのか、それとも実なのかすら肉眼ではよく判らない。

#(556)s.jpg

拡大してみて、やっと花が咲いていることが判った。まず見たことのないような形をしている。分厚い花びらのようなものは、その下に何もないからきっと萼だろう。中心にでんと鎮座しているのは雌しべで、5個であったり6個であったり、どうも数は一定していない。花弁と雄しべは、痕跡のような破片が見えるだけで退化してしまっている。

#(535)s.jpg

あたりを探すと雄花も見つかった。6本の雄しべが平らに広がっている。花弁と雌しべはやはりすっかり痕跡化している。こちらの方が木の数も花の数も多い。ごく小さいといっても数十個ほども集まっているし、薄暗い林の中で黄色はそれなりに目立つ。花よりもさらに小さなハナアブがあたりを舞っていた。

#(560)s.jpg

じつはこの植物は以前から気になっていたものだ。とても特徴のある葉を時々見かけていた。3本の葉脈が目立つが、しかしそれだけなら決して珍しいわけではない。クスノキの仲間では普通だし、またイラクサ科のハドノキなどもそうだ。それらはこのあたりにとても多い。だが、この葉では極端なくらいはっきりしている。そして革質で濃い緑が艶やかで、大きさも決して小さくはなくとても目立つのだ。そんな葉を付けた枝が、薄暗い林の中から飛び出している。うっそうと茂っているので木の全体像はよく判らない。

#(559)s.jpg

枝は丸くはない。少し押しつぶされたようないびつな断面で、多くの稜が見える。そして葉と同じくらいきれいな緑だ。幹の方まで辿るとさすがに丸くはなっているが緑色はそのままだ。根元のかなり太いところまでいって、やっと薄い茶色の木の色になる。

何の木だろうと気にはなっても葉だけでは見当も付かない。だから花を見つけて小躍りする気分になった。と言ってもこんな花では何科なのか判断できず、結局図鑑を頭から見ていくしかないのだが、それでも探す範囲は相当に狭まる。そして程なく見つけることができた。コウシュウウヤク(衡州烏薬)という名だった。

何とツヅラフジ科だった。これでは判るわけがない。ツヅラフジ科はつる性ばかりで、自立した普通の木になるのはこれだけだった。葉もどれもだいたい丸い形をしている。屋久島にはハスノハカズラがそこら中に生えている。なおこの仲間はだいたい小さなブドウの房のような実を付けるのだが、このコウシュウウヤクもまた黒光りする実がなかなかきれいなのだそうだ。

なにやら立派そうな名前はやはり漢方薬名だった。しかしどうも間違えて付けられたものらしい。中国の古い漢方薬の本に、有名な天台烏薬と並んで衡州烏薬の記述があり、その特徴がこの木に似ていたので、昔の日本人がこのことだと思い込んでしまったとのことだ。それにこの木はなんだか只者ではないような感じもする。実際には縁もゆかりもなく、こちらの薬効は偽薬程度のものらしい。

イソヤマアオキという別名があった。実際この木は青木だし、磯山に生えるからこの名はぴったりだ。この葉の独特の趣を愛でて一部に珍重する向きもあり、園芸植物としてはイソヤマアオキで流通しているとのことだ。実際の分布は四国、九州の一部から南西諸島だが、どこでも数は少なく、各県で絶滅危惧種に指定されている。それほど珍しい木が屋久島ではあちこち身近に自然に生えている。それがこの島の豊かさであり恵みかなと改めて思う。
posted by 夜泣石 at 09:57| 花草木 | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。