2010年12月26日

ヘクソカズラ

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小さな実が冬の日差しの中で輝いている。少し透けて、内側からも柔らかな光がにじみ出ているような感じだ。花の落ちた跡もきれいな形を作っている。大きさは5mmほど、まだ緑の残るもの、黄色のもの、すっかり赤茶けたものなどいろいろある。あちこちの藪や防風林に絡みついた蔓にたくさん付いている。

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大きな木から垂れ下がっていたりすると、実の数はおびただしい。これを蔓のまま採ってきて、生け花の花材やちょうどこの季節のクリスマス・リースにしたりするそうだ。その時の名はサオトメバナというのだそうだ。しかし実をうっかりつぶしたりするとたちまち正体がばれてしまう。これは悪臭で名高いヘクソカズラなのだ。

しかしそのすさまじい名前ほど酷いものではない。多くの人が悪しざまに書きたてたりするのは先に名前を聞いた先入観のためではないか。確かに悪臭ではあるが、思わず息を止めるというほどではない。またかすかに緑の爽やかさも秘めている。それに昔、野山で遊んだ子供にとってはたいへん馴染みの臭いだ。藪の中に踏み入ったりすれば必ず臭った。野山の香りそのものといった感じで懐かしいくらいだ。

臭いは強いが近付いただけでは判らない。どこかを傷つけると化学反応で臭い物質ができるのだそうだ。植物体全体に臭いの元を秘めているのは、虫や草食動物の食害に対する防御のためだという。しかしそんなことにめげる虫たちばかりではない。ホシホウジャクの幼虫など、何種類かのイモムシがこんな臭いなどものともせずもりもり食べてしまう。また鳥たちは臭いに鈍感のようでこの実を好物にしている。もっとも実の方も、種の散布のために食べてもらわないと困るのだ。おかげで我が家の庭でも毎年草取りに追われる羽目になる。

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夏の真っ盛りから終わりにかけて、いたるところでこの花を見る。1cmほどで、紫がかった深い赤、真っ白な縁取り、そして思いもかけずほのかな良い香りがする。確かにサオトメバナの名にふさわしい。また火の付いたお灸のようだということでヤイトバナとも呼ばれている。ある植物学者がその名を標準和名と決めたのだそうだが普及はしなかった。人はその本性においては下品さ強烈さを好むということなのだろう。

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筒型の花の入り口は細かい毛で覆われて中が見えない。それでもかまわず潜り込めるハナバチだけを呼んでいるのだろう。この毛は腺毛で粘液を出しているようで少しべたべたする。それがハチの体に付いて花粉がくっつきやすくなるとの説がある。2本の細い糸くずのように見えるのは雌しべの先だ。雄しべは筒の中ほどにあって外からは見えない。筒の外側がきらきらと霧吹きでもしたように見えるのは、泡のような形をした毛がびっしり生えているためだそうだ。じっと見るとどこか神秘的なほどの美しい花だと思う。

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大きな株になると一面の花の壁を作る。東京あたりではこれほどの壮観はあまり見た覚えがないが、屋久島ではごく普通だ。こうなると根元は太く木質化してとても引き抜くことなどできない。切ってもすぐに新しい蔓を伸ばしてくる。葉も大きくつやつやして別種かと思うほどだ。葉の大きさ形は変異が大きく、小さく整った葉を見て何の草かと思うと、あれもこれもヘクソだと判ってがっかりする。日本全国どこにでも生えている草だが、この島は特に気に入られてしまったようだ。
posted by 夜泣石 at 06:31| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年12月19日

シロダモ

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多くの生き物たちが動きを止めつつある初冬、シロダモはわざわざこんな時期に花を付ける。今年こそきれいな写真を撮ろうと狙っていたが、1度目は早すぎ、2度目は遅すぎてしまった。屋久島ではどこにでもある木だが、なぜか花をつけない株も多く、また大木のはるか上の梢で満開だったりして、なかなか撮影にちょうど良い木が近所にないのだった。

雌雄異株で、どちらも数ミリの小さな花をまとめて半球状に咲かせる。雌花では白い柱頭の、花に比べたらずいぶん大きな雌しべが目立つ。4枚の花被片があるが、これは萼で花弁はないのだそうだ。仮雄しべもあり、また花の真ん中の黄色い部分は腺体という付属物とのことで、小さな花でもそれなりに複雑のようだ。

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雄花ではたくさんの雄しべがふさふさとしている。1つの花には6本の雄しべしかないそうだが、それがたくさん集まっているので、しんとした冬の照葉樹林の中でなかなか目立つ。しかしそうは言ってももう虫たちの姿はほとんどない。天気の良い日に陽だまりの中を小さなハエやハナアブが飛ぶくらいだ。それにまともに咲く期間はせいぜい1週間くらい、これでよく受粉できるものだと思う。しかしそれにしてはたくさんの実ができる。もしかしたら他に花が少なく、お腹を空かせた虫たちが群がってくるので、かえって効率よく受粉されるということなのかもしれない。

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シロダモは花と実が同時に見られることでも知られている。これは実が熟すのに1年もかかり、枝にまだ残っているうちに次の年の花が咲いてしまうためだ。つい2週間ほど前、真っ赤な実がきれいだった。これと花と同時に写真に撮れると喜んでいたら、あっという間になくなってしまった。今は冬鳥が島中あふれかえっているためだろう。今年は鳥の当たり年のようで、ヒヨドリなど百羽を超えそうな群れがしばしば夜明けの空を横切っている。

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しかし何と言ってもシロダモが一番目立つのは春の芽吹きの時期だ。光の加減で金色にきらめく葉が、閉じかけた傘のような形で並ぶ。これは表面に黄褐色の毛が密生しているためだ。しばらくすると毛は落ちて表面はつるつるになる。クスノキの仲間らしく3脈が目立つ固めの葉で、裏面は蝋質に覆われて白くなる。なかなか目立つ白さで、これがシロダモの名の由来という。しかしダモの方はよく判らないのだそうだ。アオダモという木があるので対をなすかと思うと、そちらはモクセイ科で縁もゆかりもなく見掛けも全く違っている。

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大きく広がった大木が一面この新葉で飾られた姿はなかなか壮観だ。4月頃の屋久島ではいたるところで目に付く。シロダモは照葉樹の中では寒さに強く東北地方にまで分布しているそうだ。しかしなぜかこの島に来るまであまり見たような記憶がない。屋久島では数も多く、また見上げるほどの大木になっている。そして一時期、これだけ存在感を示しながらも、やがて鬱蒼とした緑の中に掻き消えていく。
posted by 夜泣石 at 06:12| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年12月13日

コバノボタンヅル

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秋にコバノボタンヅルがたくさん咲いているのを見かけて、さてどのように結実するかと楽しみにしていた。それが12月にもなって、やっと白い毛玉になってくれた。センニンソウの仲間は皆こんな実をつける。名前の由来もこれを仙人のひげに見立てたものだそうだが、センニンソウ自身は痩果の数が少なくしかも平らに広がっているのであまりそれらしくない。仲間の中で一番ふさふさしているのはこのコバノボタンヅルだろう。しかしこれだとひげより白髪を振り乱しているようだからヤマンバ(山姥)ソウとでもした方が良いかもしれない。

もう風に吹かれて崩れかけているのもある。ばらばらになって飛んで来たら鳥の羽毛かと思うかもしれない。これは、花の後普通なら抜け落ちる雌しべが残り、さらに伸び、また表面が縦に細かく裂けて毛状になったものだという。タンポポなどの冠毛は根元が束ねられているが、あれは萼が変形したものなのであんな形になるのだそうだ。風に乗せて種を遠くに飛ばすという同じ目的を、それぞれ全く違う仕方で実現しているのだった。

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白い毛がばらける前の形もなかなかきれいだった。これからはあの羽毛の姿になるとは想像できない。この形でいる期間は2ヶ月くらいと長かった。じっくり種が成熟する間、繊細な毛はしっかりしまっておくということなのだろう。

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花は4cmくらいあり見栄えがする。4枚の花びらのようなものは萼で、この花には花弁はない。たくさんの雄しべ雌しべが花を飾っている。この仲間の花はどれも良く似ているが、他よりも一回り以上大きく、雄しべ雌しべの数も多く、一番美しいのがこのコバノボタンヅルだ。またセンニンソウは夏の終わりに咲くが、こちらは秋で、しかも咲く期間は長く10月末くらいまで咲いていたりする。屋久島ではごくありふれた花だが、全国的には四国以南にしかなく、しかも各地で絶滅危惧種に指定されていたりするそうだ。

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コバノボタンヅルの葉もなかなか面白い。まず3枚に分かれているように見えるが、これは切れ込みが深いだけで一応くっついている。次にそれが3枚集まって1ヶ所から出ているが、これはもともと1枚の葉が3つに分かれたものだ。次にそれがまた3つ1ヶ所から出ているが、これももともとは1枚の葉が3つに分かれたものだ。さらに根元をたどっていくと今度は付け根に小さな腋芽が見えるので、ここが本来の葉の付け根と判る。つまりこの葉は、3分裂を2回繰り返しているわけだ。しかも今まさにもう一回分裂しようとしている途中のように見える。こんなにばらばらになるのは、この方が同じ葉面積を作るのに少ない投資で済むからだそうだ。

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またつる性で周りの木などに絡み付くのだが、そのやり方も変っている。何と葉軸や葉柄がくるくると巻き付くのだ。この仲間はみな同じで、昔、園芸種のクレマチスを育てていて初めてこれに気付いた時、なんだか小さな蛇か何かのようにも見えて、化け物じみていると思ったものだった。こうして身近な植物でもその姿をずっと追っていくと、なんだか胸が一杯になるような思いがする。自然の奥深さ、変幻自在な神秘さへの感動だろうか。
posted by 夜泣石 at 06:40| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年12月06日

キイレツチトリモチ

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屋久島にはキイレツチトリモチという珍しい植物があると聞いて、ぜひ見たいものだと思っていた。トベラやシャリンバイなどの海岸林の林床に生えるという。そんなところは我が家の近くにいくらでもある。深山幽谷や秘境などに珍しいものを探しに行く気にはもうあまりならないが、身の回りについてはすべて知りたいと今でも強く思っている。

毎年、晩秋の頃になると防風林の根元あたりをじろじろ見ながら散歩したものだった。すれ違った人はさぞかし不審に思ったことだろう。しかしどうしても見つけることができなかった。そうして今年、たまたま夕日が林床の奥深くに差し込んだ時、何か薄黄色のものがちらっと見えた。あ、あれだと胸が躍った。移住して以来の積年の宿題の片付いた瞬間だった。

キイレツチトリモチはツチトリモチと同じ仲間で、キイレというのは鹿児島県の喜入町で見つかったからだそうだ。主にトベラの根に寄生し、地下にイモのような根茎があり、毎晩秋に花茎だけを地上に出し花を咲かせる。奇妙な花だがツチトリモチのような毒々しさ不気味さは全くない。大きさも小ぶりで、高さは5cmくらい、花穂は太いところで1cmくらいだ。また雌雄同株でちゃんと雄花が咲くのだそうだ。この仲間はたいてい雌雄異株で、しかも雄株は見つかっていないから、これで初めて雄花が見られるわけだ。

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ではその雄花とはどんなものか。花穂には大仏様の頭のようなぶつぶつがある。これが雄花の蕾だった。それが3つに割れる。つまり花被片は3枚というわけだ。中から白い塊が3つ出てくる。これが雄しべの葯であった。全体が2mmかそこらの小さなものでよく見えないが、一応花の形をしている。

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一方、雌花は他のツチトリモチと同様、花穂の表面を覆う小棍体といわれるものの隙間に埋もれていて見えない。ただ雌しべの先だけが隙間から這い出してきている。ぐっと拡大してみるとビロードの表面のように毛羽立っているが、これが柱頭だった。

こんな花でどうやって受粉をしているのだろう。花穂には小さなアカアリがたくさん集まっている。茶色くなった部分はアリが噛んだ痕のようだ。きっと蜜が出ているのだろう。アリがポリネーターというわけか。しかしアリは飛べないから遠くの花に花粉を届けたりなどしてくれない。だからアリ媒花というのはたいてい地上に枝を這わせ互いに交差させたりして、違う株の花を近くに咲かせるなど工夫している。しかしキイレツチトリモチでは近くにある花穂は同じ根から出たいわば分身だ。これでは同家受粉しかできない。それでは雌雄のある意味がないではないかと思うが、いったいどうなっているのだろう。

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もっと花はないかと探してみた。一度見れば目が慣れて次々に目に入ってくるものだが、これはなかなか見つからない。やっと思いがけず我が家のすぐ近くで、出てきたばかりの花を見つけた。何年も見つからなかったのは、数の少ないこと、それに思ったよりずっと遅く11月下旬から12月頃に出てくるためであった。みずみずしい花穂はこけしか何かのようにかわいらしい。別名でトベラ人形というのだそうだが、できるならそれを本名にしてやりたい。
posted by 夜泣石 at 06:47| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年12月01日

シロモンノメイガ

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屋久島の秋をずっと彩ってきたサキシマフヨウは、今頃にもなるといささか見飽きた気もするが、それでも何気なく目をやると、小さな黒い蛾が飾りのように止まっていた。薄いピンクと黒の対比はなかなか鮮やかで互いを引き立てている。

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大きさは2cmほど、黒地は光の加減で紫がかったり、金属光沢のあるこげ茶色に見えたりする。大き目の白い斑点を無造作な感じに散らしてあって、派手ではないがじんわりにじみ出てくるような美しさがある。といっても、この蛾は決して珍しいものではない。それどころか日本全国、少し山の方にでも行けばどこでも見かける種類だ。夜行性の多い蛾の中で、珍しく昼間出てきて花の蜜を吸ったりするので人の目にも触れやすい。

では名前を調べてみようと思い立ったのだが、驚いたことにこんなに普通種なのに一般の図鑑に載っていなかった。ネットなどに当って、やっとシロモンノメイガであることが判った。この名は「白紋・野螟蛾」で「白紋の」ではないのだが、シロオビノメイガ同様つい間違えて読んでしまう。ともかくこんな魅力的な柄に対して単に白紋というだけなのはちょっと味気ない。

驚いたことはもう一つ、食草が不明ということだ。ということは幼虫も卵も見つかっていないということか。大勢の学者やマニアの目からどうやって逃れてきたのだろう。まあよく目にするとはいっても、大発生して害になるとか、逆に何か益になるようなこともなく、ただひっそりと暮らしているから誰も気にして調べるなどしなかったのかもしれない。

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長い足も白黒に塗り分けられている。蜜を吸っていたのだろう、足にも、ずいぶん長い触覚の先にも花粉が付いている。ご飯の後にほっぺたにご飯粒を付けている、そんな子供の様子を思い出すようなかわいらしさがある。

羽はどこも傷んでいないからまだ生まれてそれほど経っていないのだろう。もう今年も終わりに近く、南の島もそれなりに冷えてきた。彼らは冬を越せるほど強くはないはずだ。そんなこれからのことなど判っているのかいないのか、日暮れの弱々しい光の中でいつまでもじっとしている。
posted by 夜泣石 at 06:36| 生きもの | 更新情報をチェックする
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