2010年07月26日

ヒメヒオウギズイセン

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ヒメヒオウギズイセンがあちこちの草むらを真紅に染めている。この前までは梅雨のうっとうしさを跳ね除けるかのように感じたものだったが、今は梅雨明けの暑さをさらに煽っているかと思うほどだ。

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花はたいていうつむいて咲いている。下から覗き込むとジグザグな花茎の形が面白い。案外きちんと咲いている花は少なく萎れかけた花や蕾が多い。しかしそれらも鮮やかな色のままなので、離れてみると一面に咲いているように見えるのだった。

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花びらは6枚に分かれているが、よく見ると形や大きさが不揃いだ。幅広のものと細いものが一つ置きに並んでいて、細い方は先が三角に尖っているくらいの花もある。きっと幅広の方が本来の花弁である内花被片で、細い方は萼に当たる外花被片なのだろう。花の中心部はオレンジ色に明るくなりそこにくっきりと模様がある。これは蜜標なのだろう。あたりはいつも大きなチョウやクマバチなどでにぎわっている。先が3つに分かれた雌しべ、自由に動く葯の付いた3本の雄しべは長く突き出ている。これならアゲハでも十分受粉の役に立ちそうだ。

スイセンという名がつくが、この花はぜんぜんスイセンに似ていない。実際スイセンはヒガンバナ科だがこちらはアヤメ科だ。アヤメ科には茎の先に一つの花を付けるアヤメの仲間と穂状にたくさんの花を付けるグラジオラスの仲間があり、これは後者の方だ。

屋久島では地元の人はゲンコツバナとかトビ(ウ)オバナと言っている。ヒメヒオウギズイセンなどという舌のもつれそうな名前を聞くことはない。トビウオバナはトビウオの獲れる頃咲くということで判りやすいが、ゲンコツバナはなぜなのか聞いても判らなかった。

ヒメヒオウギズイセンの名前の元はまずヒオウギだ。ヒオウギは重なった葉が扇のような造形で目を引くが、それだけでなく赤い斑点のある橙色の花や、万葉集などにぬば玉として出てくる真っ黒な果実など、とても魅力的な植物だ。ヒオウギズイセンというのは葉がヒオウギに似ていて花はスイセンに似ているのだそうだが、外国産の園芸種のようで見た覚えはない。ヒメはそれより小型だからと言うことだが、もはやヒオウギのような気品などなく、全く違う野生的な感じの花だ。なんでもヒオウギズイセンとヒメトウショウブの交配種だとあちこちに書かれてあるが、ヒメトウショウブとは何なのかどこにも出てこない。園芸種などいろいろなものが偶然混じってできたと思った方がよさそうだ。

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ヒメヒオウギズイセンはもともと園芸用の花として明治の頃にもたらされたそうだ。とんでもなく強靭なため各地でたちまち雑草化したようだ。初めて屋久島に来た時、それこそところかまわず咲いているのに驚かされたものだった。梅雨時の壮大に茂る雑草に混じって決して負けないでどんどん増えていく。全国的にも増えているようで、聞けば東京近辺でも今では普通に見かけるとのことだ。

園芸カタログなど見ると、今でもクロコスミアという名で売られていた。わざわざ「佐賀県では栽培禁止」と注釈があった。きっとあまりの繁殖力のため生態系のバランスを崩す侵略的外来種か何かに指定されているのだろう。なかなかきれいな写真が載っているので知らずに買って、花が咲いて何だこれかとがっかりしそうだ。
posted by 夜泣石 at 06:18| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年07月21日

オイランアザミ

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海岸林の裾を覆うようにオイランアザミの群落が続いていた。アザミの花はたいてい赤紫一色だが、これはずいぶん白い部分が多い。日差しに透けて花の奥が乳白色の光に包まれた感じでなかなかきれいだ。アザミの花を形作っているたくさんの糸のようなものは雄しべがくっついてできた筒だが、その下部が白、上部が紫と色分けされている。またその筒の中を突き抜けて出てくる雌しべも下の方は白く先端は鮮やかな赤紫の2色になっている。

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花は茎の先端にいくつも集まって咲いている。花軸がとても短く、頭に直にくっついているような感じだ。それが髪飾りのようで、たくさん飾りをつけた花魁を連想してオイランアザミになったのだという。味気ないものが多い植物名のなかでは出色のネーミングと言えるかもしれない。

近い仲間にハマアザミがあり、伊豆あたりから南の暖かい海岸でよく見た。そちらの花は色も普通に濃く、またこんなにびっしり付いてもいなかった。なぜか鹿児島県あたりだけオイランアザミに移り変わり、屋久島ではハマアザミは全くないようだ。もっと南の琉球諸島に行くと今度はシマアザミに変るそうだ。

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アザミの葉はトゲトゲなのだが、その中でも特にこれはすごい。まるで栗のイガのようだ。棘の先は白く固くなっていていかにも針といった感じがする。写真を撮ろうとうっかり近付いて何度か痛い目にあわされた。植物の棘は草食動物に食べられないよう防御のためのものだと言われている。しかしなぜ海岸近くでこんなすさまじい棘が必要だったのか。鹿や猪は山に多いはずなのだが。

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オイランアザミは巨大化する。すでに高さは1mを超えているが、秋にはこの倍近くになっていたりする。茎はフキのように、根は牛蒡のように食べられるそうだが、これならなかなか食べ出がありそうだ。しかしこの島ではそうした習慣は無いようでたくさんの株は無事に茂るままになっている。花は6月頃咲き出し、次々に新しい枝を出してずいぶん寒くなるまで咲き続ける。しかしこの花はすぐに薄茶色に汚らしくなる。秋以降はそんなものばかり目立つので、この花を観賞できるのは夏の初めの今頃くらいしかない。
posted by 夜泣石 at 05:51| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年07月16日

ツノトンボ

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夜、明かりに引かれてたくさんの虫が窓辺に集まる季節になった。そんな中に珍客がいた。ちょっと見るとトンボかと思うが長い触角が不自然だ。どことなくチョウにも似ているが羽がぜんぜん違う。そっと窓を開けて部屋の中に入れてやった。トンボのようにすいすい飛ぶが少々ぎこちない。そのうち天井にぶら下がるように止まって動かなくなった。こうしてみると触角の長さに改めて驚く。その先が玉になっているのも目を引く。赤茶色のお腹がずいぶん膨れているのがいささかグロテスクだ。卵でも持っているのだろうか。体の長さは測ってみると3.5cmくらいだが、生きている姿からはもっとずっと大きな虫に感じられる。

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翌朝まだ元気だったので外に出してやった。壁に止まって、やっと差し始めたばかりの朝日を浴びて羽根を震わせている。お腹はだいぶへこんでいるので、どこかに卵を産み付けてしまったのかもしれない。

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大きな目玉と棒のような胴体。この姿を見ればまず普通の人はトンボと思うだろう。しかし虫好きの子供なら、たいていこれはツノトンボという名前であることを知っている。こういう紛らわしいものの方がかえって印象深くて覚えやすいのだ。

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数日後に雄もやってきた。ツノ(触覚)が微妙な形に曲がっている。なによりお尻の先が鋏になっているのが大きな特徴だ。トンボの雄もこんな形になっていてそれで雌の首筋を掴むのだが、もしかするとこちらも同じことをするのだろうか。

ツノトンボはトンボに似ているが実際はかなり縁遠くてカゲロウの仲間だ。カゲロウといってもアミメカゲロウ目で、よく水辺近くに群れているいかにも弱々しい感じのカゲロウとも縁遠い。近い仲間で馴染みのあるものといえばクサカゲロウやウスバカゲロウだろう。ウスバカゲロウの幼虫はアリジゴクとして有名だが、ツノトンボの幼虫もそれにそっくりだ。ただ穴を掘ったりはせず、地面や草の上などで大あごを開いて獲物を待ち伏せしている。昔、東京近くの野山でそんな虫を何度か見た。あのいかにも地下の住民にふさわしいグロテスクな姿のまま、よくも白日の下に堂々と出てきたものだとあきれる思いがした。中には背中の襞に枯葉の破片を付けて変装しているのもいた。手の上に載せたら何を思ったか大あごで皮膚を挟んできてかなり痛かった覚えもある。

ほぼ日本全土に分布しそれほど珍しい種類ではないそうだ。草原が棲みかということで、水辺や原生林などほど環境が破壊されていないためだろう。いやそもそも草原というのは環境破壊の結果の産物なのだが。夏の初めに発生するようで、我が家には今頃の時期に毎年何羽かが窓辺にやってくる。しかし野外で見つけたことはない。チョウやトンボのように派手に飛び回ったりしないから気が付かないのだろう。多くの人にとっては馴染みがないようで、変なトンボが見つかった、新種ではないかという問い合わせや、時には新聞記事になることが毎年のようにあるそうだ。それだけ身の回りの自然に疎いということか。いやそれより、単に虫か、トンボかと片付けずに、変なトンボと、変であることが判るだけでも、人々がそれなりに自然をよく見ているわけで喜ばしいことかもしれない。
posted by 夜泣石 at 06:15| 生きもの | 更新情報をチェックする

2010年07月11日

リョウブ

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久しぶりに山に行ったら白い花がたくさん咲いていた。もこもこと噴出すような感じで、かなりの大木の上から下まで何層にも雲がたなびいているかのようだ。梅雨のこの時期、あまり出かけたりしなかったからこんなに咲いているとは知らなかった。何の花か判らなかったが、後でリョウブであることに気付いた。本州の夏山で馴染みだった。

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花を付けた枝が道路際に張り出していた。近付くとぷんと良い匂いに包まれる。甘くちょっとニッケ菓子のようなおいしそうな香りだ。もともと目立つのにさらにこの香りだから、チョウやハチなどたくさん虫が来ている。

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小さな花をよく見たら、雄しべの葯がくさび型でキツネの顔に似ている。雌しべは柱頭が3つに分かれ、根元に薄緑の子房の玉が見える。そのあたりが光っているので蜜もたくさん出ているのだろう。花びらは5枚だが根元でくっついていて雄しべごとすぽっと抜け落ちる。ほかで見た覚えのない、なかなかかわいらしい花だ。蕾も真っ白な玉で、それがびっしり並んでいるのも何かの飾り物のようだ。

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新しい枝が横にすっと伸びていた。若葉の葉軸がきれいに赤く染まっている。葉が重なった枝先はもうそれ以上伸びず、その下から新しい枝を先に伸ばしていく。それを繰り返して幾重にも波を打つような感じになる。これを仮軸分枝というのだそうで、これだと枝先が多くてたくさんの若葉が付く。リョウブは今は山菜として扱われるが、昔は飢饉のときの救荒植物として利用されたのだそうだ。あまりおいしいものではないと多くの人が書いているが、味よりたくさん取れることが重要だったのだろう。

リョウブはリョウブ科で日本では1科1属1種なのだそうだ。そんな仲間外れのような木だが、ほぼ日本中の山にたくさん生えている。根が浅く土壌の少ない岩石地にも耐えられるそうで、そういうところは他の木が生えないから一面リョウブ林になっていたりする。屋久島でも道路際にたくさんあるのは、工事であたりの自然が破壊されたためだろう。山岳道路を500mほど登ると突然現れ、それより低いところには生えていない。暑さは苦手のようで、とするとここより南には高い山はないから、この島あたりが分布の南限かもしれない。
posted by 夜泣石 at 06:39| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年07月05日

ニンジン

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我が家の家庭菜園のニンジンは昨秋かなり貧弱なものしかできなかったので、いくつか収穫せずに放っておいた。春になると茎がどんどん伸びて、1m以上にもなって、そのてっぺんに蕾を付けた。セリ科らしくたくさんの小さな花が円陣を組み、それらがまたぎっしりと円盤状に集まっている。

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花が咲いて驚いたのは半球状に広がったことだ。この仲間の花の付き方は複散形花序といわれるものでたいてい円盤状になるものだが。ともかくこの形だとどこから見てもきれいだ。背も高いし、径も10cmほどあって、真っ白でなかなか見栄えがする。花壇にびっしり咲かせたら誰も野菜の花とは思わないだろう。

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一つ一つの米粒よりも小さな花がどんな形かと目を凝らしたが小さすぎてよく判らない。図鑑によれば5枚の花びらと5本の雄しべのあるまともな花のようだ。蜜が出ているのか、それとも花粉を食べているのか、時々ホソヒラタアブやハエの類が来ている。

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一月ほど前に咲いた花は今は種になりかけている。そこでまた驚いたのは再び円盤状に戻ったことだ。やはりこれが本来の形で、満開の時に球状になるのは、どの方向からでも見えるようにして虫をひきつけるためだったのかもしれない。その甲斐あってか無数の極微の花が一つ一つすべて結実しているようだ。いやこの数は半端でないのでたぶん自家受粉もあるのだろう。

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果実はなんだかきらきらしている。ぐっと目を凝らすと透明な棘にびっしりと覆われていた。これはきっとヤブジラミのようにひっつき虫になるのだろう。ともかくこの様子は、頭に2本の触覚をぴんと伸ばした虫がたくさんの短い足でじたばたしているようで面白い。

ニンジンは長い茎の脇から枝を出してその先にまた花を付ける。枝の脇からまた新しい枝を出して、そうして次から次へと咲くので、今は蕾の状態から種の状態まですべて揃っている。屋久島はこのところずっと降り続く毎日で、それも雷だったり土砂降りだったりで野外に出かけることができない。当分こんな庭の花を楽しむしかなさそうだ。
posted by 夜泣石 at 06:12| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年07月01日

アオギリ

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海岸林の中に白い小さな花をたくさん咲かせている木があった。切れ込みのある大きな葉を密に茂らせ、遠くから見た時はカミヤツデかと思ったが花の時期が違いすぎる。

近付いて見ると、まず目にしたことのないような形の花だった。花びらが反り返った様子からはウリノキやクサボタンを思い出した。しかしよく見ると全く違った花だ。図鑑を頭から探した挙句アオギリであることが判った。そもそも花だけ見ないで木全体を見ればよかった。幹が緑色だったのだ。細い枝が緑色という木は珍しくはないが、これは大木といえるくらいになっても幹が緑色のままだ。

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リボンのようなものが反り返って、どこかに飛んで行くような動きを感じさせる。これは萼だそうで、この花には花弁はないとのことだ。小さな蝶がこの隙間にストローを差し込んでいたので、この奥に蜜がたまっているのだろう。先端の形が2種類あるのは雄花と雌花ということのようだ。それらが一つの花序の中に、位置や時期のずれもなく混ぜこぜになっているというのも珍しい。

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普通、1本だけ突き出ていたらそれは雌しべと思うが、この花ではこれが雄しべだった。何本かの雄しべが合着して葯も一つの玉になっているのだ。やがてそれが割れて花粉を噴き出す。その頃、初めは白かった萼にきれいな赤みが差してくる。

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雌花の方は赤黒く平らな柱頭が突き出していて、その下の方にはうす赤く染まった玉がある。ということはそれが子房ということになる。子房が丸出しで、萼などがそれから離れて花柄の途中に付いているのだ。この形はギョボクと同じで、珍しいものを立て続けに見てしまったわけだ。ただこの花では雄しべは普通に子房の下にくっついている。子房の台座のように見えるものが痕跡化した雄しべだそうだ。

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アオギリは東京でもあちこちに植えられていた。見上げるほどの大木ばかりで、こんな花が咲くなど全く知らなかった。落ちた花で足元が真っ白になっているので、注意さえしていれば気付けたはずだったのだが。図鑑には奄美大島あたりから南に分布するとあるが、屋久島のこの海岸林はどう見ても自然分布だ。近くに実生の若木がいくつもあり、今も広がりつつあるようだ。アオギリは果実の様子が面白かった記憶がある。ここならそれができていく様子が目も前で見られるわけで、また一つ時々覗きにくる楽しみが増えたようだ。
posted by 夜泣石 at 06:53| 花草木 | 更新情報をチェックする
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