2010年06月26日

ハマボウ

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梅雨だからといって、こんなに律儀に降らなくても良いのにと思うほど、屋久島では大雨が続いている。そんな日々の中の一瞬の晴れ間にハマボウを見に海岸に行った。見上げるほどの高さに茂った木全体に8cmほどの大きさの花がびっしりと咲いていた。大雨で多くの花々は溶けるように形を崩しているのだが、これは一日花だからどれも咲きたてのきれいさを見せている。

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ちょうど開きかけの花があった。花びらが風車のようにねじれて組み合わさって、ちょっと見るとバラかと思う。ただバラではこの状態が長く続くが、この花ではすぐにほどけていく。

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開ききると5枚の花びらは隙間なく重なり合って一枚の紙を丸く切り抜いたかのようだ。淡い黄色はわずかに透けて、ぼんやりとどこか寂しげな風情がある。それを真ん中の赤茶色が引き締めている。これは花びらの根元が濃く染まっているのだった。

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中を覗くと、雄しべ雌しべが一つになって塔のように突っ立っている。これはアオイ科の花の特徴でハイビスカスなどみな同じ形だ。たくさんの雄しべがくっついて筒になって、その中を雌しべが突き抜けているのだそうだ。広く散らばることの多い雄しべが束ねられているから、この花はとてもすっきりして見える。雌しべの先が5つの玉になって、ビロードのようにびっしり毛羽立っているのがちょっと異様で面白い。

ハマボウの名前の由来は浜のホオノキの意味だそうだ。しかしホオノキはまっすぐと数十メートルにもなる大木で巨大な細長い葉を茂らせ、花も白くずいぶん大きい。ハマボウとはどこも似ていない。生えるところも寒い山地に対し暖地の海岸と大違いで、昔の人にとっては両方見ることも少なかっただろう。何か沿海地の特有の言葉に由来するのではないかという気がする。

この木は花の印象に似合わず極めてたくましい。根元から枝分かれして、しばらく地面を這った後立ち上がっている。枝というか幹というか、太い丸太が何匹もの大蛇を連想させる。これはもともと海岸の砂泥地に生えるためで、こうしないと体を支えられなかったのだろう。半マングローブ植物と言われたりもするそうだ。

屋久島では昔、広大なマングローブ林があったが、港湾工事で今は見る影もない。同様にハマボウも保護のため移し変えられたものばかりで自然林はまず見かけない。近縁種にオオハマボウというものがあり、この島あたりが分布の北限だが、その自然林も消滅してどこかに数株が保護されているだけという。自然遺産の島として山地の保護が叫ばれているが、それにも増して豊かな平地の自然はもうすっかり破壊しつくされている。
posted by 夜泣石 at 06:46| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年06月20日

ギョボク

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屋久島に来て感激したものの一つが、目にも鮮やかなツマベニチョウだった。その食草がギョボクとのことで、その聞いたこともない木をぜひ見たいものだと思った。我が家の庭では春早くから冬の初めまで、ほとんどいつもツマベニチョウは飛んでいる。当然近くにギョボクもあるはずなのだが、移住して何年も経つのに見つからない。というより見たこともないものはあっても識別が難しいのだ。自然公園の中にギョボクと札のかかっている木はあるのだが、見上げるほどの大木で幹しか見えず、どんな葉でどんな花が咲くのかほとんど判らない。

昨年、時々遊びに行く河口近くに遊歩道が切り開かれているのを見つけて、きっとここならば見つかるだろうと目星を付けた。図鑑に生育地は沿海地の林内とあった。あまり他にないような花なので、花の時期なら見分けが付くだろう。この6月、ずっと天候不順の続く中で珍しく晴れた日、待ってましたとばかりに探しに行った。そしてすべてが目論見通りにいった時はうれしかった。

何か形の整わない、はっきりしない花だった。4枚の花弁は上半分にしか付いていない。形も大きさも不揃いで、薄く弱々しく、しっかり開いている花の方が少ないくらいだ。色も淡く、白から薄い黄色にだんだん変っていくようだ。

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雌しべとたくさんの雄しべが花の外に突き出している。ちょっとクサギに似ていて蝶媒花ということか。雄しべはすぐにぽろぽろ落ちてしまうようで、雌しべだけになった花が多い。きっとそれで同花受粉を避けているのだろう。不思議なのは雌しべの先端近くが膨らんで玉になっていることだ。これは何だろうと考えて、もしかしたら子房ではないかと思いついた。すると雌しべのように見えるものの大部分は長い花柄ということになる。そして普通は子房の直前か直後にある花弁や雄しべなどが、ずっとうしろの花柄の中間あたりに付いているのだ。しかし花の成り立ちからして、果してこんな形があり得るのだろうか。それに保護されなければならない子房がこんなに無防備でよいものだろうか。ともかくこんな形は他の花ではまず見た覚えがない。

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離れて見ると大きく茂った頂あたりにたくさんの花が咲いていた。園芸植物のクレオメが同じフウチョウソウ科だそうだが、そう言われてみればこの感じは似ている。風に舞う蝶を連想して風蝶草と名付けられたとのことだが、確かにたくさんの蝶が乱舞しているかのようだ。フウチョウソウ科は主に熱帯地方に分布し日本にあるのはこのギョボクだけだそうだ。南西諸島が中心で北限は九州南端とのことだ。魚木という名はおかしな響きで一度聞いたら忘れない。木質がやわらかく軽く、加工してイカ釣りの擬餌に使ったからだという。

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花も変っているが葉もかなり特徴がある。3出複葉だが、それぞれの葉は形が不揃いで、長い葉柄の先にだらしなく付いているといった感じだ。葉柄が赤く、どうかすると葉脈までもその赤が続く。これからは葉を見ただけでギョボクと判りそうだ。

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ある年の晩秋、公園のギョボクと札の付いた木の高いところに実がぶら下がっているのを望遠レンズで撮っておいた。華奢な感じの花と違ってずいぶん存在感のある果実だ。アフリカでは食用にするとの記述があった。今年の秋はぜひこれを手に入れようと楽しみにしている。
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2010年06月15日

ナンキンハゼ

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海岸沿いの散歩道にナンキンハゼの花が咲いていた。新葉が赤く色付く間から15cmほどの黄色の穂が斜め上方に突き出している。派手ではないがこんもり茂った木全体からたくさん飛び出しているのでそれなりに目を引く。

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どんな花かとぐっと目を近づけたが米粒より小さくよく判らない。後で調べたらこの穂は雄花の集まりで、皿状の萼の中に2本の雄しべがあるのみだそうだ。

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では雌花はどこにあるかというと、この穂の根元辺りに数個付くのだという。しかしこの木ではいくら探しても見つからない。別のところに、秋にたくさんの実を付ける木があるので調べに行った。図鑑の記述通りに確かに雌花があった。余計なものは捨て去って、ほとんど子房と雌しべだけになっている。こちらの方はまだ雄花は開いていない。雌性先熟というわけだ。

では我が家の近くにある株にはどうして雌花がないのか。どうも本来は雌雄同株だが、生育条件が悪いと雌花が付かなかったりするそうだ。それとは別に、まず雄花だけ咲かせて、その後花穂の根元近くから小さな花穂を分岐させてそれには雌花を付けるという雄性先熟の株もあるそうだ。なかなか一筋縄ではいかない木のようだ。

さらにこの形状からして当然風媒花だと思ったが、どうもあたりに虫の羽音もする。ネットで調べたらこの小さな花の根元あたりに蜜線があるのだそうだ。

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花は小さいが実は1.5cmくらいとそれなりの大きさがある。秋が深まると果実は割れて中から真っ白な種が3個くっついて顔を出す。やがて果皮が落ちて白い種だけが葉も落ちた枯れ枝に点々と付いている様子はなかなか風情がある。

種子は本当は黒いくらいの茶色なのだが、その上を白い蝋状物質が覆っているのだった。蝋は昔はハゼノキから取っていたが、その代用になるということでハゼの名が付けられたそうだ。その上にナンキンが付いているのは中国から渡来したからだという。しかし日本でも地層からはこの種子の化石が出るとのことで、昔は自生していたのだそうだ。たぶんどこかの氷河期を乗り越えられなかったのだろう。だから自生だ外来だとあまりこだわるのもどうかと思う。出たり入ったり、滅びたり栄えたりするのが生き物なのだから。

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ナンキンハゼは秋の紅葉が特に美しい。寒さの足りない屋久島の里地で、見事に紅葉するのはハゼノキとナンキンハゼくらいだ。この両者はウルシ科とトウダイグサ科で関係は遠いのだが共通点がいくつもある。実が小鳥たちの大好物というのもその一つだ。どちらも脂肪分に富んでいるためか、冷え込んでくる時期、メジロヒヨドリが群がってくる。種の方も周りの脂肪分を消化してもらわないと芽生えないのだそうだからお互いに助けあっているわけだ。そうして小鳥たちがばら撒くから、どちらも屋久島のあちこちに生えている。
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2010年06月10日

マサキ

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近くの漁港にマサキの大きな木があるのに以前から気付いていた。春先に蕾をたくさん付けていたのでどんな花が咲くのか楽しみにしていた。ところが何度見に行っても、いつまでたっても小さな砲弾のような蕾は固いままだった。そうしてさんざん焦らしておいて、もう梅雨に入る今頃になってやっとちらほら咲き出した。せいぜい7mmかそこらの小さな花だが、がっしりした単純な作りで、なんだか工作物のような感じがする。花とは丸いものという先入観があるから、この四角っぽさはちょっと意外だ。花弁は長めのものと短かめのものが2枚づつ向き合っていて、少しいびつな形になっている。大きな真四角な花盤が特に目立つが、そこには蜜がたっぷりたまっていてアリやハナアブがよく来ている。

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雄しべは初めはぴんと突っ立ているが、やがて横に倒れて、最後は花弁の隙間から垂れ下がる。その頃雌しべは少し伸びて受粉可能になるようだ。つまり雄性先熟ということだ。蕾は枝先に付いて、その下の方から2本の枝が出てその先にまた蕾が付いてという形をどんどん繰り返す。2倍2倍となっていくのでたくさんの蕾になる。そしてその順に咲いていくから全体では長い期間花が咲き続ける。

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厚い葉は明るく形もよく何よりびっしり付くので生垣に利用されるそうだ。それに花は全く見栄えはしなくても冬の赤い実はなかなかきれいだ。しかしこんな海辺に生えるとても強健な木でどんどん茂るから、その手入れは大変そうだ。

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果実は熟すと割れて、ニシキギ科らしい鮮やかな赤い皮に包まれた種子が顔を出す。この冬、きれいなところを撮りたいと何度も通ったが、花と同じでなかなか開かずずいぶん焦らされた。

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種子はもっと飛び出してきて、割れた殻の先にぶら下がって遠くからでも目立つようになるはずだが、ここではそういう姿を見たことがない。いやそれどころかまだ殻の中にあるうちにどんどん無くなってしまう。冬の屋久島にはうじゃうじゃというほどたくさんの小鳥たちがいるから、きっと彼らがほじくり出して食べてしまうのだろう。

北海道の寒い地方を除けば日本全国の沿海部に分布しているそうだ。最初、マサキという名を聞いて、なぜこの木が正しい木、真の木なのかといぶかしかった。しかしそういうことではなく、いつも青々としているのでマッサオキというのが語源らしい。ともかく木の中の木というほどではないけれども、それなりに存在感のあることは間違いない。
posted by 夜泣石 at 06:41| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年06月05日

ヒメユズリハ

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もう一月ほども前の5月初め頃、家近くの防風林で異様なものを見つけた。木の枝から茶色の粒がびっしり付いた小枝が飛び出している。病気か、得体の知れない何かが寄生でもしているような感じだ。

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近くに、黒くしなびて白い粉を吹いているのもあった。どうもこれは花粉を噴出しているようだ。ということはこれは葯で、茶色の粒が丸く並んだものは、花びらや雌しべなどすべてなくして雄しべだけになった花ということのようだ。これでは虫など来ないから当然風媒花ということになる。風媒花は物理的な制約しかないから、色や形が自由で思いがけない姿になっていることがよくある。それでももとは普通の花だったから、花の基本の形は残している。

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この木はヒメユズリハだった。ユズリハと近縁で、葉が小型のためヒメと名付けられたそうだ。しかし木としては決して小さくなくユズリハより大木になっていたりする。ユズリハは新芽が伸びると古い葉が垂れ下がり新旧交代が顕著で人目を引く形になる。ヒメの方は普通の形をしていて目立たない。

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どこかに雌花もあるはずだと探した。ところが不思議なことに見つかるのは雄株ばかりだった。やっと最近になって雌株を見つけた。島の北西部の寒いところだからまだどうにか花が残っていたが、それでももう終わりかけで黄色の柱頭はほとんど黒くなっていた。こちらも花弁の痕跡がわずかに付け根に残っているだけで、子房と柱頭だけになっている。これが花だとは教えてもらわなければ判らないだろう。

探していて気付いたのは、この木は海岸近くの照葉樹林にごく普通にあるということだった。主要な構成樹の一つといってよい。ユズリハもよくあるが、それよりずっと多いようだ。花も木の様子も目立たないので気がつかなかっただけだった。分布は本州中部あたりから南に沖縄の先まで続くそうで、庭木や街路樹などにも使われているという。そうするとずっと身近にあったということだが名前すら聞いたことがなかった。照葉樹林の中を歩くと知らないものだらけで、一生楽しめそうだなと改めて思ったものだった。
posted by 夜泣石 at 09:42| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年06月01日

ニゲラ

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花壇の中でニゲラが咲いていた。もう何年も前に種をまいた覚えがあるが、それ以来ずっとこぼれ種から芽生えて咲き続けている。別に手入れなどしていないのだが、羽毛のようなあるいは細い魚の骨のような形の葉がなかなか感じよくて草取りから免れ、毎年4、5月頃、気がつくと青い花を咲かせているのだった。

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花も葉も何となく好きではあったが特に気にもしていなかった。それが何気なくよく見て、あれ、こんな花だったのかとその異様な形にちょっと驚いた。ねじれた角のような雌しべが何本も突っ立ていて、周りに飛沫でも飛び散っているかのような雄しべがたくさんある。なんだか噴水を時間を止めて見ているようだ。

これはきっとキンポウゲ科だなとすぐに判った。雄しべ雌しべがたくさんあるのは原始的な花の特徴だそうだが、進化した花よりかえってきれいだったり凝った造形をしてみせたりする。宝石のような青の花びらに見えるものは本当は萼で、花弁はほとんど退化しているのだそうだ。それもこの仲間によくあることだ。

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近くに実もできていた。これもまた、角を生やした悪魔の頭といった感じで、それがかごの中に閉じ込められてでもいるかのようだ。この中に黒い種がいくつも入っている。それは刺激的な味と香りでスパイスとして使われるという。といってもキンポウゲ科はだいたい有毒で、実際食用として使われるのは一部の種類に限られるそうだ。我が家の庭は持ち主の性向を反映して果物やハーブなど食用のものばかりだが、これは見るだけにしておいた方が無難のようだ。

ともかく庭の隅にこんな面白い形が毎年出現していたのに、それを見過ごしてきていたのがなんだかもったいなかったような気がしてしまった。
posted by 夜泣石 at 05:31| 花草木 | 更新情報をチェックする
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