2010年04月30日

ハマクサギ

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ハマクサギはどうといって特徴のない木だ。条件がよければかなりの大木にもなるようだが、通常は防風林や海岸林の端などにひっそりと溶け込んでいる。花が咲かなければ気が付くこともない。いや花もごく地味でその気にならなければ目に入らない。そんなものなのだが春先になるとそろそろ咲き出していないかと毎年見て回る。屋久島に来るまで見たことがなく、似たような花もないのでこれは何だろうと頭を悩ました個人的な経験が印象深くしているのだろう。

一字違いのアマクサギと割と近縁だが、花も実もあの華やかさとは大違いだ。花は1cmほどのくすんだ黄色で目立たない。しかしぐっと目を近づけると、なかなかかわいい形をしていてあれっと思う。こんな形はシソ科によく見られ、ハナバチ相手に進化したものだそうだ。アマクサギはクマツヅラ科だが、同類のハマゴウもこんな形をしていた。

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横から見ると長い筒になっている。もぐりこんで長い口吻を伸ばすことのできる虫でないと蜜が吸えない仕組みだ。その背中を狙って、雄しべ雌しべが天井にかたまっている。合弁花だから、少したつとこの形のまますぽっと抜けて葉の上などに転がることになる。そうして3月から5月にかけて次々に咲き続ける。

花は小さいけれどもあたりにとても良い香りを漂わせている。しかしクサギだけあって葉をもむと異臭がする。といってもアマクサギほど強烈ではない。よくひどい悪臭と書かれてあったりするが、この島の木の個性か、そんな逃げ出したくなるような臭いではない。ゴマの香りを強めて酷くしたといった感じだろうか。

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落葉樹ということだが、このあたりでは去年の葉もたくさん残っている。本土では秋の黄葉がきれいだそうだが、南の島では寒さが足りずそういう印象はない。しかし新緑はとてもきれいだ。臭いにめげないケムシたちもいるようで虫食いが多い。

東海あたりから南に琉球列島を通って台湾あたりまで分布しているそうだ。こんな何の変哲もないような木であっても何となく惹かれる人はいるようで、皇居を始めあちこちの植物園などによく植えられているのだそうだ。
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2010年04月25日

メキシコマンネングサ

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海近くの農道の脇のあちこちを埋め尽くすように鮮やかな黄色の花が咲いている。もともと密集して生えているのに、20cmほど立ち上がった茎の先から3本ほど枝が出て、それぞれがまた2本に分かれて放射状に広がっていて、それらすべての枝にびっしり花を咲かせているから、とんでもない数の花の分厚いじゅうたんのようになっている。

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花は1cmくらい、黄色1色で中心に光の塊を抱え込んでしまったかのようだ。もわっとしてどうなっているのか構造がよく判らない。

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どうやら先が針のように尖った雌しべが5本あるようだ。根元はずいぶん太くずんぐりしている。雄しべは10本、葯は最初きれいな赤で裂開すると黒ずんでくるようだ。

分厚い葉と黄色の星型の花というのはマンネングサの仲間の特徴だ。いろいろ種類はあが、人里で普通に見られるものは在来のコモチマンネングサ、中国朝鮮原産のツルマンネングサ、そしてこのメキシコマンネングサくらいだ。メキシコマンネングサは世界中に広がっていて原産地は不明だそうだ。これらはどれも花はよく似ているが葉は違っている。前2種は平べったいが、メキシコマンネングサはマツバボタンに良く似た棒状になっている。東京あたりでもこれが一番多かったが屋久島でもほとんどこればかりのようだ。

舗装道路の隅の、流れてきた泥がたまっただけのところにも群落を作っている。土の厚さはわずかなはずだ。そして夏には炎熱地獄になるようなところだ。なんでもCAM型とC3型という2種類の光合成を使い分けているのだそうだ。前者は乾燥条件に耐え後者は湿潤条件下で旺盛な生育を可能にするという。学名のセダムで呼ばれ、屋上緑化の切り札のような存在だったそうだ。そういえば数年前まではずいぶん屋上緑化が叫ばれていたが、今は太陽光発電パネルがもてはやされている。移り行く世の中に翻弄されたわけだが、打ち捨てられてもこれだけ頑健な植物のこと、都会のあちこちの片隅で輝くばかりの花をいっぱい咲かせていることだろう。
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2010年04月21日

ナワシロイチゴ

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畑の周辺や防風林の根際などでナワシロイチゴが咲いている。花は赤というか濃いピンクで、今頃このあたりに咲いている花の中では一番きれいだ。しかしきれいでいる時間は短い。すぐに白っぽく色あせてきて、まもなく花びらは散って雄しべ雌しべだけのブラシ状になる。やがてそれらもばらばらと抜けていく。しばらく白茶けた萼だけの状態が続き、真っ赤なイチゴが実って再び目を引くようになるのは2ヶ月以上も先の話だ。

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咲き初めたばかりの花はとてもかわいらしい。折り紙細工の小箱のようで、合わせ目からたくさんの雌しべがはみ出している。それらを棘々で先の尖った頑丈そうな萼が、近付くなといわんばかりに守っている。

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しばらくすると萼が開く。しかし花びらは決して開かない。つぼみの時のまましっかりと寄せ合わさって、雄しべ雌しべを隠そうとしているかのようだ。しかし花びらはしゃもじのような形だから下の方は隙間だらけだ。そこからたくさんの雄しべの真っ白な足元が覗いている。

普通キイチゴの仲間は白い花で、平らに大きく開く。下向きに咲くものが多いのは雨よけか、有象無象の虫たちを排除するためか。下向きだと優秀なポリネーターのハナバチぐらいしか簡単には止まれないのだそうだ。ナワシロイチゴは異端児で、色は赤いし上向きに咲く。それで雨よけや虫除けのために花弁はずっと閉じたままでいるのだろうか。蜜は花弁の根元にある。上から吸うためには長いストローを差し込まなければならない。ニッポンヒゲナガハナバチが止まっているのを見かけたが、彼らは驚くほど口吻が長いのだそうだ。花の上で動き回っていたから、きっと花弁の先がめくれて足やお腹に花粉が付くのだろう。

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低く地面を覆っている葉の様子もきれいで、花がなくても目に付きやすい。日本全土に分布しているそうで東京あたりでも時々見かけた。屋久島の里には特に多いようでそこら中に茂みを作っている。ぽつぽつ咲き初めたのは3月も初め頃、それからずっと咲き続け、まだまだ新しい枝の先にいくつもつぼみをつけている。ナワシロの名は苗代を作る頃に赤く実るからだそうだ。しかし屋久島では田植えは3月だ。イチゴの方は5月頃、真っ赤な小ぶりの実がびっしりと実る。おいしそうに見えるが残念ながら甘味は弱く風味といえるほどのものもない。
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2010年04月17日

ニッポンヒゲナガハナバチ

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写真を撮ろうと花に近寄ったらミツバチが止まっているのに気付いた。次の瞬間あれっと思った。いやに触角が長いのだ。太目で黒光りしてまるでカミキリムシのそれのようだ。こんな虫がいるとは知らなかった。体は普通のミツバチより少し小さいくらい、ミツバチほどではないがそれでも蜜を求めて動き回るので、あまり観察も出来ず数枚の写真を撮るのがやっとだった。

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後で図鑑を調べてすぐにニッポンヒゲナガハナバチだと判った。日本全土に分布し、それほど珍しい種類ではないようだ。ただ現れるのが4月5月頃だけと短いので目に触れにくいのだろう。それにヒゲが長いのは雄だけで、雌は短くちょっと見にはミツバチと見分けが付かない。それにしてもこの邪魔なくらいのヒゲの長さはどういうことか。彼らの生活の中で何の役に立っているのだろう。蛾の仲間に、雄が立派な櫛状のヒゲを持つものがあるが、あれは雌のフェロモンを感知するためだ。こちらもわずかな期間に雌を探さなければならないので、こんな長大なアンテナを持つ必要があったということだろうか。

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そっくりな虫にシロスジヒゲナガハナバチというのがいるそうだ。見分け方は前翅の肘室という部分の数で、ニッポンは3、シロスジは2だそうだ。何のことかと思ったら図解があって、撮った写真にもたまたまその部分が写っていたのでニッポンと同定できた。それにしても生物学者という連中はこんなどうでもいいようなことにこだわりを持つものかと思ってしまう。いや実はそうではなく、種類が違うということが大事なのであり、それを確実に見分けるポイントがあるというだけなのだろうが。

ミツバチと違って社会性はなく単独で生活しているそうだ。雌は自力で地中に巣を作り、せっせと花粉と蜜を集めて花粉団子を作り、それに卵を産み付けるのだそうだ。花の多い春の一時期だけにすべて済ませなければならないためか、深く蜜を隠しているような花からも吸えるよう、彼らの口吻もまた驚くほど長いそうだ。

またそうして苦労して作った巣に、そっとやってきて卵を産みつけるダイミョウキマダラハナバチという蜂がいるという。自分は何もしないで子育てをちゃっかり他人に任せてしまっているわけだ。こういうのを労働寄生というそうだ。いや彼らにしてみたら、別に悪気はない、たまたまそこに食べ物があったから卵を産みつけただけだというのかもしれない。
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2010年04月13日

トサノゼニゴケ

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山道を行くと岩壁の一部がびっしりゼニゴケに覆われていた。何気なく見ると、小さな玉をたくさん付けているのに気付いた。あれっと思って目を近づけると、それは日本酒の杯のような形のものだった。

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中を覗いてみると紡錘形の緑のかけらがいくつも入っている。もう枯れて壊れかけた杯もあって、楕円形の小片がこぼれ落ちそうになっている。ああこれが無性芽だなと、以前本で読んだことを思い出した。コケは胞子で増えるのだが、それだけでなく無性的にムカゴのようなものができて親と全く同じ分身が芽生えてくるのだ。

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ゼニゴケは小さなキノコのようなものをたくさん立てていた記憶がある。ここにもないかと探したら少し離れたところで見つかった。まだ未熟のようだが、これは雌の方で傘の下に卵子を抱えている。雄は上が平らの円盤状で、その中に精子を入れているそうだ。それが雨粒の衝撃で飛び散り、傘の下の卵子に届くのだという。なんとも効率の悪いことで、よほど近くに雌雄がいなければ受精などできないだろう。ところがあたりをいくら探しても雄は見当たらず、つまりここでは全く有性生殖は行われていないということになる。聞けばそれが普通で、ゼニゴケはほとんど無性で増えているのだそうだ。

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コケは都会の真ん中でも湿ったところにはたいてい生えている。しかし大きなかたまりにはなっても、一つ一つの本体はひどく小さいからどんな種類かなどよく判らない。そんな中でゼニゴケだけは多くの人に知られている。得体の知れない動物の舌のような葉が重なるようにどんどん地面を覆っていって、どこか薄気味悪い感じもして嫌われ者になっている。

そんなゼニゴケだが、なぜか屋久島では今まで気付いたことがなかった。それにこの山中のものは都会で見慣れたあのグロテスクな憎々しさがなく、小さめで色もきれいでなかなか良い感じだ。調べて見るとどうもこれはトサノゼニゴケという種類のようだ。南方系で関東あたりから南にずっと分布しているという。もともとの日本在来の種類で、それに対し都会で普通のゼニゴケは大昔に人と共にやってきた、いわば史前帰化植物ではないかとのことだった。

コケの中で一番知られているゼニゴケだが、それではコケの代表かというと実際はかなり異端で特殊なものなのだそうだ。園芸用品のミズゴケなどばらしてみると判るが、多くのコケには茎と葉の区別がある。しかしゼニゴケは葉だけでその裏側から直接根(仮根)が出ている。葉も普通はごく小さく薄くそれがびっしり並んでいるものだが、これは厚みのある一枚になっている。なんでもたくさんの葉が一つに融合したものだという。葉にも構造があり、ぷつぷつ見える半透明の粒は気室孔という穴で、その下に箱型の気室があり、その中で光合成が行われるのだそうだ。こんなに高度に組織が分化しているのはゼニゴケだけだそうで、乾燥にも耐えるよう新たに進化したものではないかという。昔の本には、見かけが海藻に似ているためか原始的なコケと書かれてあったりするが、実際は逆なのだった。コケはなんだかよく判らずずっと敬遠してきたのだが、こんなきっかけのおかげでずいぶん興味深いものに思えてきた。
posted by 夜泣石 at 09:12| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年04月08日

オオジシバリ

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屋久島の海岸には一面芝原が広がっているところがあり、芝に守られるようにしてオキナワチドリシマセンブリリュウキュウコケリンドウなど可憐な花が次々に咲く。しかし最もよく目にするのは、ありふれた黄色のキク科の花だ。潮風の吹き荒れるところだから、花茎は捻じ曲がって花もすぐ傷むが、それでも次々に新しい花を咲かせてなかなかきれいだ。

海浜植物は苛酷な環境に耐えるよう形を変えていることが多い。しかしこれはどう見ても普通の庭や道端に咲く花だ。葉も薄くやわらかく、特別潮風から身を守ったり乾燥に耐えたりするような工夫は見当たらない。いろいろ調べたが、日本全土に普通に分布するオオジシバリに間違いないようだ。

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花は小さなタンポポといったところだが、黒っぽい雄しべがちょうどよいアクセントになっている。多くのキク科の花と同様、そのうちこの先から雌しべが花粉を掻き出しながら伸びだしてくる。雌しべは二又になっていて、しばらくするとくるりと円を描く。それは他から受粉できなかった時の逃げ場としての同花受粉の仕組みだといろいろなものに書かれてある。ところがある人が、つぼみのうちにすっぽり袋をかぶせてみたら種はできなかったそうだ。そんな簡単な実験で間違いと判ることなのに、一度誰かが言い出すと皆が受け売りして広く信じられてしまう。

オオジシバリは針金のような茎を地面に這わせて、その先で根を下ろす。地面を網で覆ってしまうような感じになる。厳密に言えばツリー構造だが、そんな栄養繁殖でこんなに繁茂してしまったのだろう。屋久島の海沿いはたいてい崖になっていてあちこちから水がにじみ出る。丈さえ低くしていれば普通の草でも暮らしていけるようだ。

つぼみは赤みがかった緑色の総苞(そうほう)にしっかりと包まれている。やがてその間から舌状花の先が顔を出す。黄色の花びらが、最初はこんな鮮やかなオレンジ色をしているのも何か不思議な気がする。この色のまま咲いても良かったのにとも思ってしまう。

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posted by 夜泣石 at 10:35| 花草木 | 更新情報をチェックする

2010年04月03日

クロマツ

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海岸に行くとクロマツが黄色のなにやら水生動物の卵塊のようなものをたくさん付けていた。松など全国どこにでもあるし、こんな姿も昔から見慣れていたはずだ。きっと当たり前すぎて気にも留めなかったのだろう。しかしここの林はまだ若く、とても生命力あふれる感じで思わず目を奪われてしまった。そしてふと、これはいったい何だろうと思った。そういえばこんなものはほかの植物ではまず目にした覚えがない。

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まっすぐに突っ立っているのは今年伸びた新しい枝だ。そしてその下にもじゃもじゃたくさん噴き出しているようなものは雄花の穂だった。ためしにぐっと拡大してみると確かに小さな花のようなものが軸の周りにびっしり付いている。これではこの木だけでも大変な数になる。松は風媒花だから風まかせで受粉の確率は低い。たくさんの花を咲かせたくさんの花粉を飛ばさなければならないわけだ。ところでそれは杉と同じだ。ということは松でも花粉症があるのだろうか。調べてみると確かに松花粉症はあった。幸いなのは花粉の粒子が杉より大き目で飛散する範囲が狭く、それで多くの人のところまで届きにくいというだけだった。

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まっすぐに伸びた新枝のいくつかには、先に赤いものがぽちっと付いていた。これは雌花の集まったものだそうだ。目を近づけてみると、それはいわば松ぼっくりの赤ちゃんだ。一枚一枚の赤い鱗片の奥に雌花が収まっているのだろう。これは成熟するのに2年もかかるそうで、見慣れた松ぼっくりになるのは来年の秋だという。その頃、堅い鱗片が反り返って、その隙間から羽の付いた種子が出てきて風に飛ばされていくのだそうだ。

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松の葉は2本が根元でくっついている。そこを互いに引っ掛けてどちらが先に切れるか引っ張り合って遊んだものだった。考えてみるとこれも不思議で、2つに分かれた葉などほかでは思い当らない。実はこの根元の茶色い部分は短い枝で、そこに2枚の葉が付いているのだった。その枝ごと取れてしまっていたのだ。こうしてよく見ると松にはいろいろ変ったところがあったのだが、しかしまたそれらは普通の植物の形からすべて説明ができるのに今さらながら驚かされる。

屋久島では海岸にクロマツが、山にはアカマツが生えている。どちらもほとんど分布の南限のようで、これより南の島にいくとリュウキュウマツになるのだそうだ。海岸のクロマツは自然の植生でなくほとんど防潮防風用に植えられたものだろう。この島でもかつては見事な白砂青松の景色があちこちで見られたそうだが、海岸付近はすっかり工事され、松は切られ、マツクイムシにやられ、一部を除いて今では島中ほとんど無残な姿になっている。
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