2006年11月30日

ルビーガヤ

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農道に沿って赤く燃えるような草むらがあった。何だと思ったらイネ科の穂だった。びっしりと生えた細い毛が日差しを受けて鮮紅色に輝やく。柔らかそうにふくらんで、さわってみるとダウンのような感じだ。


こんなきれいなイネの仲間は見たことがない。そもそも受粉が風まかせなのだから、きれいな色など必要ないはずだ。この鮮やかな色は偶然の産物だろうか。いやいや自然のやることには必ず意味があると考えた方がよい。そういえば紫外線よけに赤い色は効果的と聞いたことがあるのだが。


イネ科の植物はよく判らないし、あまりきれいでもないので敬遠していた。しかしこれなら判るだろうと図鑑で探した。なかなか見つからず、何冊目かでやっとホクチガヤ、別名ルビーガヤという名に行き着いた。なるほど火のようだし、ルビーのような色だ。南アフリカ原産で南西諸島に帰化したが、今では本土の暖地でも時折見つかるという。


この島にも外来種は多い。東京の都心部などではほとんど帰化植物だらけだが、自然の破壊と人や物資の往来がそうさせてしまったのだという。この島でも低地はほとんど開発の手が入ってしまっている。しかしここへは外国から直接来る船や飛行機はない。それでも生き物たちはたくましく、あちらに寄りこちらに寄りして、ほんのわずかな機会をとらえて着実に入り込んでくるようだ。


ルビーガヤの草むらはススキすら生えない荒れ地にある。農道は舗装され、下の畑地はすっかり耕され裸地になっている。その境の乾いてカチカチの隙間にびっしりと生えている。はるばる外国からやってきて、在来種が見向きもしないところをきれいに覆ってくれているのだ。なんだか今の日本社会の姿と重なって見えたりする。
posted by 夜泣石 at 17:02| 花草木 | 更新情報をチェックする

2006年11月28日

雨の日の楽しみ

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書斎から眺める雨上がりのモッチョム岳


雨が降り続いている。もう一週間も雨の降らなかった日はない。庭の渓流は恐ろしげな音を立てて流れ、木々は存分に水を吸って重たげに揺れている。


しかし雨の合間に突然雲の切れる時がある。強烈な日差しが照りつけ、森や大地からもうもうと水蒸気が立ち昇る。そして濃密な霧を作り、流れてきた雲と合わさって山の周りを真っ白に覆っていく。


すっかり洗い清められた岩山が真っ白い衣装をまとって輝く。陰鬱な雨の記憶はたちまち消えていく。白い蝶がひらひらと舞い、鳥がいたるところで鳴き交わす。


しかしそれも束の間、山の向うから真っ黒な雲がやってくる。空も山も闇に隠れ、稲妻が光り雷鳴がとどろく。すさまじい音を立ててまた雨が降り出す。そうして十分に清められた大地を、これでもかというほど再び洗い流していく。


私は書斎で本を広げながら、激しく移り変る自然をただじっと眺めている。
posted by 夜泣石 at 11:24| 屋久島暮らし | 更新情報をチェックする

2006年11月26日

ウラジロフジウツギ

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畑の脇の雑木から花の穂がたくさん突き出していた。だいたいは花は終り実をつけて茶色になっているが、新しくきれいに咲きだしたものも少なくなかった。


全体がごく淡い紫だが、咲き始めの一時、四枚に分かれた花弁の先だけが濃く染まる。その対比が美しい。花の入り口も真っ白い毛で塞がれて、中の雄しべ雌しべが見えない。なんだか上品で奥ゆかしいような花だ。


フジウツギ科の落葉低木。九州南部にしか分布しないそうだが、この島では里の荒地に普通である。本来は夏の花だが、穏やかな気候の今の方が、かえってきれいな色で咲いたりする。


今年屋久島では夏から秋にかけて雨が極めて少なかった。そして例年なら安定した天気の続く今頃になって、まるで埋め合わせでもするみたいにたくさん降っている。するとあたかも雨季の来るのを待っていたかのように、いろいろな花がもう一度咲き出した。気温も少し涼しい程度で、我々にとってもこの時期はとても過ごしやすい。しかし何といってももうじき12月。みんなあだ花なのだと思うと、そのはかなさのためか、かえってきれいに見えたりする。
posted by 夜泣石 at 10:30| 花草木 | 更新情報をチェックする

2006年11月24日

ハダカホオズキ

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葉陰にきれいな赤い玉を見つけた。あまりに真っ赤で、あまりにまん丸だ。そしてその付き方が面白い。植物の実なら普通は縁飾りのような萼があるのだが、これはなめらかな円盤にただくっついている。何か作り物のような感じだ。


宝石のようだと月並みな言葉が浮かんで、そういえば世の中には宝石という高価なものがあったのだと改めて思い返した。都会には宝飾品を扱う豪華な店などもあるのだった。そんなことが不思議に思えるほど離島の生活も板に付いてきたようだ。


島暮らしには木漏れ日を浴びて輝くこの愛らしい玉があれば十分だ。いつまでも輝く宝石と違って、今この時だけのはかない美しさ。誰にでも与えられるが誰も自分のものにすることはできない。


ナス科の多年草。本州でも暖かい地方で見られるという。ナスの仲間にはこんなきれいな実をつけるものがいくつもある。だけど毒のものも多いという。冬枯れの野に、点々としぼんだ赤い実だけが残っていたりする。
posted by 夜泣石 at 09:58| 花草木 | 更新情報をチェックする

2006年11月22日

タンキリマメ

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赤い鞘に真っ黒の種。面白い格好で付いている。散歩道の脇の雑木に絡まっている。夏に黄色の小さな花に気付いてあれっと思った。それから時々見回って、小さな実ができ、だんだん赤く大きくなって、割れて黒い種が出てくるのを楽しんできた。


タンキリマメは種を食べると痰が切れて咳止めになるのだそうだ。しかしそれは迷信だという。でもこのつやつやした真っ黒の実はなんとなく喉をすっきりさせそうに見えたりする。それに変った名前だから一度で覚えられる。


関東地方から南に分布するという。珍しいものではないそうだが、よく似たトキリマメを横浜近くで一度見ただけだった。思いがけずこの島で出会えてうれしかった。


この形は人間が設計したらこうは作らないだろう。大事なものは元の方にしっかり付けるのが常識だ。それなのにこれは黒光りする実を、殻の先のもっとも弱そうな所にちょこんと付けている。さあ食べてくれと差し出しているのだろうか。しかし最初にできたものなどもう一ヶ月以上も差し出されたままだ。


ともかくこの形には気を惹かれる。何か危うい感じで動的なのだ。一つ一つが違った格好で偶然の位置で止まっている。飛び出そうとして、その瞬間に固まってしまったというようなのだ。なんだか見ていて楽しくなってくる。
posted by 夜泣石 at 10:23| 花草木 | 更新情報をチェックする

2006年11月20日

紅葉狩り

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仏陀杉を彩る紅葉


屋久島に移住する前年の秋、東京では紅葉が例年になくきれいだった。遠くまで行かなくとも郊外の高尾山で紅葉狩りが堪能できた。これが紅葉の見納めかなと思いながら何度も見に行った。


全体が照葉樹林の屋久島では、本土のあの全山が色付く景色など見ることはできない。しかし紅葉がないわけではなかった。島のほとんどは高い山だから、上の方は北海道並みの気候だし、里山にも冷気は吹き降ろしてくる。


ヤクシマオナガカエデは黄色から橙色になかなかきれいに色付く。開かれた土地で真っ先に大きくなるから一面の紅葉が見られたりする。札幌など北地を染めるナナカマドもこの島の山上で真っ赤になっている。


中でももっとも屋久島らしいのは、屋久杉の上の着生木の紅葉だろう。普通は地上でしか見られないさまざまな樹種が高い木の上にびっしりと生えている。それぞれが赤や黄色に色付いて、まるで紅葉の盆栽のようだ。


彼らはコケのマットに生えている。このあたりは雲霧林と呼ばれ、海からの湿った空気が山を上り、冷えて霧を作り出す高さにある。コケは地上だけでなく高木の幹や枝もびっしりと覆う。この10月、屋久島は観測史上最低の降水量だった。11月に入っても半月ほどほとんど雨が降らなかった。それでもコケのマットは霧を吸って、干からびることなく彼らの命を守った。


彼らとて地上で根を張ったらもっと大きくなれただろう。しかしもし地上で芽生えていたら、大木に日光を遮られてほとんど育つことはなかっただろう。巨人の肩に芽生えたからこそ、ここまで生き延びることができた。小さくとも居心地の良い楽園でのささやかな暮らし。なんだか精一杯楽しんでいるようにも見えてくる。
posted by 夜泣石 at 10:52| 屋久島暮らし | 更新情報をチェックする

2006年11月18日

ヒメムカシヨモギ

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南の島でも朝晩は少し寒く感じるほどになってきた。日中の風も涼しく日差しの下の散歩も気持ちが良い。秋の花も多くは実や種になっている。


ヒメムカシヨモギが一面綿毛を付けていた。あせたような薄茶色で、ゴミかほこりかといった感じで風に飛ばされている。北アメリカ原産の強健な雑草で、日本中、少しでも空き地があればたちまち我が物顔に占領する。人の背ほども高くなるが花は小さくみすぼらしい。まず喜ばれることのない草だろう。


だが光を背にした瞬間に、突然黄金色に輝いた。細い綿毛の一本一本にまで光が染み透って、金の糸で作られた房飾りといった感じだ。


光はどんなものをも美しくするのか。それともどんなものでも美しさを持っていて、光はそれをあらわにしてくれるのか。どちらでも良いけれど、どこにでも美しいものが見つかることを幸せと思いたい。
posted by 夜泣石 at 09:22| 花草木 | 更新情報をチェックする

2006年11月16日

ハイニシキソウ

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農道の側溝に突き出して小さな紅葉があった。よく見ると砂粒ほどの花や未熟な実がびっしりと付いていた。地面の上には小さな葉を付けた細い茎が網の目のように張り付いている。普段は気にもせずに踏みつけていた所だ。


コニシキソウに似ているが、その特徴である葉の真ん中の黒っぽい斑紋がない。全体に小柄でべったりと地面に伏せている。図鑑をひっくり返しルーペで観察してハイニシキソウと判断した。


東京で普通のコニシキソウもこんなに赤くなったであろうか。街路樹の根元や歩道の敷石の隙間など、それこそどこにでも生えていたのだが。あわただしい毎日、目もくれず通り過ぎてしまっていた。


コニシキソウは北アメリカの温帯地方原産だという。ハイニシキソウの方は同じアメリカでも熱帯地方とのことだ。よく似た帰化植物でもやはり原産地に相応したところに来ている訳だ。しかし温暖化のためか、ハイニシキソウも現在では本土の暖地のあちこちで見つかるという。


こんな小さな雑草だが、はるか異国からやってきて、季節の風情に乏しいこの島で小さな秋を演出してくれるのも面白い巡り合わせのように思う。
posted by 夜泣石 at 06:44| 花草木 | 更新情報をチェックする

2006年11月14日

サツマノギク

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海辺に咲く白い菊は園芸種かと思うほど華やかだ。かつては岸壁一面を真っ白に覆っていたという。しかし今ではそんな景色はこの島のどこにもない。子供の頃は集落の周りにどこにでも咲いていたと地元のおばさんが言っていた。しかし当たり前すぎて誰も大事にしなかったためか、今ではほとんど見かけない。


空港近くの土手に、それでも保護されてたくさん咲く所があり、そこから一枝をもらってきて挿した。2年もすると抱えきれないほどの大株になって、数百もの花をびっしりと咲かせた。今年の春、嵐で折れた茎を4つほど庭に挿しておいたら、今はそのどれもが数輪の花を咲かせている。それほどこの地の環境に合っているのだ。もともとの自然の復活のために、我が家の道沿いの石垣をこの菊で覆ってやろうと思う。


茎や葉が真っ白い毛で覆われている。海岸の厳しい環境に耐えるためだという。特に葉の裏の毛はびっしりとフェルトのようで、それが表にはみ出て、葉の周りが白く縁取りされたように見える。この縁取りの程度や葉の切れ込み具合からオオシマノジギクという別種を立てる人もいるが、実際には中間のものも多い。花は東京で普通のリュウノウギクによく似ているが、残念ながら葉はあんなに良い香りはしない。南九州の狭い範囲にだけ分布しているという。


写真を撮っているとイチモンジセセリがやってきた。花の隙間に片っ端からストローを差し入れている。どこに蜜があるか判っているのでなく、手当りしだいに試している様子でせわしなく口を動かす。日本全国どこにでもいて、かつては大群で渡りをする蝶として有名だった。小型で地味だが、目が大きくチョコチョコしていてかわいらしい。昔はたくさんいたし素手で捕まえられて子供たちの良い遊び相手だった。戦後のあの頃、私たちもまた小さく貧しかったが、目をきょろきょろさせてすばしっこく、そして懸命に生きてきたのだった。
posted by 夜泣石 at 10:12| 花草木 | 更新情報をチェックする

2006年11月12日

メジロホオズキ

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みかん畑の小道の脇に真っ赤な実が輝いていた。長いまつげに飾られているみたいでとてもかわいい。木漏れ日が当たると透き通った感じで宝石のようにきれいになった。


赤い色は食べてもらいたいという鳥への合図だという。ではこのまつげも果実を目立たせる役目なのだろうか。ともかくこんなに目立っているのに、なかなか食べてもらえないようだ。いつまでも、だんだん黒くしなびてきても、まだ枝に付いていたりする。きれいすぎるとかえって警戒されてしまうのかと思ってしまう。


ナス科の多年草で紀伊半島以南にあるという。当地では林の陰などあちこちで目にする。メジロホオズキのメジロとは赤い実の中ほどにある白い点のことらしい。しかしそれよりもパッチリお目々のメジロを連想してしまう。メジロにまつげはないのだけれども、あの白い縁取りはまつげ以上に効果的だ。


ところでまつげは目にゴミの入るのを防ぐためのものだという。だから砂漠のラクダなど砂塵対策のため格別に長いそうだ。それが人間にとってはすっかり価値を変えて、かわいさの要素の一つになってしまった。目という重要なコミュニケーション手段のすぐ近くにあって、それを飾る格好になっているからだろう。


ふと大きな目を見開いた西洋人形を思い出す。アメリカ生まれのセルドイド。若い頃、米国に出張して苦労した夜など、思わず口ずさんでいたのは「わたしはことばがわからない」というフレイズだった。甘く哀しいメロディーがその時の気分に合っていた。そんな忘れていた思い出が、はるかにこんなところまで追いかけてくる。
posted by 夜泣石 at 15:13| 花草木 | 更新情報をチェックする

2006年11月10日

コヨメナ

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茂みの中に紫がかった空色の野菊が点々と咲いていた。東京で見慣れたノコンギクなどに比べて一回り小柄である。とてもきれいで気になったが名前は判らなかった。どの図鑑にもそれらしい写真は見当たらない。


ふと思い立って花を分解してみた。驚いたことに冠毛がほとんどない。ヨメナなどはごく短いが、それらよりさらに貧弱なのだ。葉は硬めでザラザラしている。検索表を調べて、やっとコヨメナという記述に行き着いた。四国より南に分布するというが、多いのは奄美から先のようだ。そのためか大抵の図鑑には載っていない。ところで本土で普通のヨメナはオオユウガギクとこのコヨメナとの雑種だそうだ。そんな由緒のあるものならもう少しちゃんと扱って欲しいと思ったりする。


畑の脇にみすぼらしく咲いていたのを摘んできて庭に植えてみた。次の年、瞬く間に広がって邪魔になってしまった。引き抜いてみたら細い地下茎が網の目のようになって地中を占領している。それを道路わきの空き地にぞんざいに埋めておいたら数ヵ月後には花を咲かせた。元の所にも根が少し残っていたらしく、そこでも元気に咲いている。キク科はだいたい逞しいが、その中でも特別強そうだ。花期も長く、このあたりでは夏のうちから半年近く咲き続ける。


しかし見た感じは全体に弱々しい。茎は細くなよなよした感じで、株は立ち上がらず横に広がる。葉も小さめで、花はしとやかな感じで愛らしい。このようなどこか控えめな風情の花に惹かれるのは、北の方から流れ着いた者の郷愁だろうか。この島に生まれ育った人はどう感じるか、いつか聞いてみたいと思う。
posted by 夜泣石 at 08:41| 花草木 | 更新情報をチェックする

2006年11月08日

モグラ叩き

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居間からの眺め。雑草だらけの庭と隣家の林。境に川が流れている。


田舎暮らしの大きな目的の一つに庭いじりがあった。花よりも果樹や野菜の畑作りである。できれば自給自足を目指したかった。しかしその意気込みは今はかなりしぼんでいる。いろいろ邪魔をしてくれる連中が多すぎたのだ。その中で思いもよらず酷かったのがモグラである。


どこかを耕すと、いったいどうやって嗅ぎつけるのか、すぐにモグラがやって来てトンネルを掘る。植えた苗は浮き上がり、下は空洞になっているから強い日差しにひとたまりもない。朝は青々としていたのに夕方見に行くとすっかりしおれている。こうして買ってきたばかりの苗が次々に枯れていく。


種まきをする。ある日水をかけると、突然地面が崩れ、泥水がトンネルの中に吸い込まれていく。こうして種や、芽生えたばかりの双葉など埋もれてしまう。それなりに高価な培養土もかなりの量がどこかに持ち去られている。場所を変え、モグラのいるところから遠く離して畝を作り直す。しばらくするとそこまでトンネルが延びている。しっかり石積みをしても、モグラは小さな隙間を見つけて入り込む。


トンネルの中に石を投げ込んで塞ぐ。木の枝で柵を作る。彼らは意外に力が強く石を持ち上げ、柵を壊す。そうでなければすぐに迂回路を作る。石灰が嫌いだと聞いたので入れてみた。トンネルの盛り土が白くなっただけだった。においに敏感と聞いたので手元にあった正露丸を放り込んだ。数日来なかったがすぐに慣れてしまうようだ。園芸用品にモグラ忌避剤というのがあったので買ってきて埋めた。その錠剤は翌日盛り土の上に放り投げられていた。手作りの罠にもかからない。被害は直接・間接に、もうかなりの金額になる。


ところで私は殺生が嫌いである。家の中に迷い込んだ虫ですらいつもそっと窓から出してやっているくらいだ。モグラもかわいい動物だと思っていた。しかしもう堪忍袋の緒が切れた。


何か武器はないかと百円ショップの中をうろついた。ミニ剣山が目に止まる。いくつか買ってきて穴の中に並べた。地獄の針の山である。一時来なくなった。しかし気が付くと剣山の下に新しく穴を掘っていた。また武器探しに行って今度は包丁である。通り道に包丁を何本もまっすぐ突き刺しておいた。翌日にはばらばらに倒れていた。彼らの穴掘り用の強力な爪は、ちゃちな包丁など平気のようだ。


だんだん常軌を逸してくる。今度は釣具屋に行って釣り針を買ってきた。ルアー用の三つまたのフックで、モグラの何十倍の魚も引っ掛けるものである。それに釣り糸を付けていくつも穴の中にばら撒いた。だがモグラは釣れなかった。彼らはビロードの毛が密生していて引っかからないようだ。


地元の農家のおばさんに相談したら「本当にモグラには困っている。どうしたらいいんですか」と逆に聞かれてしまった。もうアイディアも出てこない。馬鹿みたいに、トンネルを見つけるたびに、こん畜生!とばかりに踏み固めるばかりだ。ある時気が付かずに歩いていて、突然足先が地面にもぐりこんで転びそうになった。なんだかモグラにからかわれているのか、いじめられているのか。そういえば昔モグラ叩きというゲームが流行っていた。あれも私は苦手だった。
posted by 夜泣石 at 06:04| 屋久島暮らし | 更新情報をチェックする

2006年11月06日

ヤクシマノギク

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林の陰に野菊が咲いていた。ヤクシマノギクらしいが自信がない。図鑑を調べてからもう一度見に行った。花の中を覗いて冠毛が大変長いことが確認できた。これはノコンギクの仲間の特徴だ。葉は厚めで光沢があり短いが柄がある。ヤクシマノギクで間違いなさそうだ。


屋久島の固有種である。といってもノコンギクの亜種ということらしい。しかし見掛けはだいぶ違っている。姿かたちがノコンギクよりずっと立派なのだ。すっと立ち上がっていて、下の方の葉など何倍も大きい。


東京にいた頃、秋の野山を歩くとそこは野菊の世界だった。朝晩がどんどん冷え込んでいく季節、寒さに強い花だけが咲き残ったのであろう。ノコンギク、ユウガギク、カントウヨメナ。それぞれが好みの場所で、同じような白から薄紫のたおやかな花を一面に咲かせていた。澄み切った青空の下、冷たい風が心地よかった。


日本の秋を代表するあの懐かしい風景には、残念ながらこの島では出会えない。なかなか寒さが来ないので、いろいろなものが繁茂し続けてしまう。そんな茂みの中にぽつんぽつんと野菊も咲いている。


ヤクシマノギクも他の草たちに負けないようにたくましくなったのかもしれない。しかし花そのものはノコンギクとよく似ている。いろいろな記憶がだんだんと薄れていく中で、毎年この季節に昔の思い出を呼び起こしてもらえそうだ。
posted by 夜泣石 at 05:47| 花草木 | 更新情報をチェックする

2006年11月04日

ヤッコソウ

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左から二つ目が雄性期、他は雌性期。抜け落ちた雄しべが転がっている。


この花には屋久島に来て初めて出会った。何の気なしに目をやった山の小道の足元にたくさん出ていた。これが噂のヤッコソウかと感激した。確かに両手を広げた奴さんである。これが花だとは教えられなければ判りそうにない。日本では四国から南に分布するそうだが、見つけるのはそう簡単ではないらしい。屋久島ではそれほど珍しい植物ではない。秋に山を歩けばあちこちで目に入る。


写真を撮ろうとしたら、きれいな株になかなか巡り合わなかった。だいたいのものは頭やお腹が齧られて茶色くなっている。蕾のうちに齧られたようなものもある。いったい誰の仕業なのか。そのうち、小さなアカアリのいっぱいたかった株を見つけた。たっぷりある蜜に群がっている。花のあちこちにもたかって齧っているようだ。やっかいな連中に狙われてしまったものである。


この花は咲き始めが雄花で、後で雌花に変る。その切り替えは雄しべの部分を帽子のように脱ぐことによる。帽子の横にべっとりとねばねばした花粉を出している。帽子を脱ぐとつやつやした坊主頭が現れ、これが雌しべである。帽子は筒のように長いのでヤッコソウが自分で脱ぐのは難しそうだ。いったい誰が脱がしてくれるのだろうか。


花粉の媒介にも、いったい誰を呼び寄せているのだろうか。林の中の大木の根元はいつも薄暗い。そのため下草は少なく見渡しはきくのだが、小さなヤッコソウは目立たない。色もなく、かといって純白でもなく、薄茶色にくすんでいる。匂いを出しているようでもない。残念ながら、今までアリ以外に何かが来ているのを一度も見たことがない。


スズメバチが媒介者だという話がある。そうだとしたらこの色は彼らの好きなイモムシかウジムシに似せているのだろうか。そうするとこの齧り跡は彼らの大顎の跡なのだろうか。ところでヤッコソウは両肩のへこみに蜜を溜めている。だから横に立って、コップに口を突っ込むようにして蜜を吸うことができる。その時スズメバチは顔しかヤッコソウに触れないだろう。そして彼らの顔の大きさではヤッコソウの花粉にはちょっと届かないように見える。


鳥媒花という話もある。たくさん蜜を出すのは鳥媒花の特徴という。鳥の大きさなら横から口を突っ込んでも頭が花粉まみれになりそうだ。次の花でその頭を雌しべに押し付けることだろう。頭を上げた拍子にヤッコソウの帽子も脱がしてやってしまいそうだ。


ではどんな鳥か。このあたりに最も多いのはヤマガラなどのカラ類だ。よく地上で落ち葉などを掻き分けて虫や木の実などを探している。しかし彼らは蜜など吸うのであろうか。蜜吸いの鳥として有名なメジロはこの島にも多い。しかし地面ではあまり見かけたことがない。椿のような赤い花だったら枝の上のメジロを呼び寄せられることだと思うが。どこにでもいるヒヨドリはどうであろうか。彼らも蜜が好きだが、しかしあの嘴の長さだとストローを使ったみたいに花に触れずに蜜を吸ってしまいそうだ。それでもたくさん咲いている中を飲み歩けば、今度はお腹に花粉が付くかもしれない。


結局これからも観察を続けるしかない。しかしたまたま何かを見かけたというだけでは不十分だ。確証を得るためには蜜を吸っているところを捕まえて花粉の付着を調べる必要があるのだろう。スズメバチにしても鳥にしてもそれは容易なことではなさそうだ。


ヤッコソウはシイノキの根に寄生している。地面に浅く張っている根から直接この花の部分だけが突き出ている様子は、何かエイリアンでも飛び出しているみたいだ。この仲間には世界最大の花といわれるラフレシアがある。ラフレシアは見るからにグロテスクで大変な腐肉臭でハエを呼び寄せるそうだ。日本の仲間はこんなに愛くるしく蜜をいっぱいためた花でよかったと思う。
posted by 夜泣石 at 05:45| 花草木 | 更新情報をチェックする

2006年11月02日

ウスベニニガナ

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道端や石垣のすき間など、隅っこでぽつんと咲いています。幼い女の子が物陰でこっそり遊んでいるような感じです。ちょっと不安げに、ぽかんと空を眺めています。どこか寂しげな紫がかった桃色はとてもきれいです。いつかいっぱいに花開いたら、きっと人目を引くでしょう。でもいつもほとんど開かれないまま終わってしまうのです。


花は開いてもせいぜい5oほど。小さな株にいくつか咲いている様子はとてもかわいい。しかしそのうち驚かされることになる。どんどん大きくなって、横にも広がる。葉も厚くてごついといった感じだ。そうして畑の一角をどんどん覆っていく。結局いつも退治しなければならない雑草なのだった。大きな株になっても簡単に引き抜けるが、いつもきれいな花が付いているのでなんだか申し訳ないような気持ちになる。


熱帯、亜熱帯に広く分布し、日本では紀伊半島より南で見つかるという。しかしやっかいな雑草にまでなっているのは屋久島あたりからではないだろうか。一年草ということだが、当地ではほぼ一年中咲いている。花は口元をぎゅっと縛られつぼめられたような感じだが、秋の終わりなどにそっと開いて、写真のように可憐な素顔をこっそり見せてくれることがある。
posted by 夜泣石 at 05:55| 花草木 | 更新情報をチェックする
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